この夜、鋼牙は夢を見た。
場所は子供の頃にカオルと出会った、あの別荘。
しかし、周囲の風景は『約束の地』にあった至福の大地という訳の分からないもの。
彼は一人で剣を振っていた。
そこへ、父の大河が現れる。
「鋼牙、今日はお前の婚約者であるカオル姫をお連れした。粗相のないようにしろ」
突然すぎる発言に、彼は心の中で少し動揺した。
そんな息子の様子を無視して、父親は一匹の真っ白な子ウサギを出す。
姫と言っているわりに、右手で首の後ろを摘んで自分の前に出すのは不敬ではなかろうか。
そんなことを思いながら、彼は両手で子ウサギを受け取る。
よく見ると子ウサギの頭には小さな王冠があった。
「カオル姫は天上界を支配する王族、御月家の姫君だ。本来なら王族の姫が我々の許へ降嫁することはないのだが、姫の父親である王を私が助けたという縁で、姫の夫には是非お前をとの要望があった」
このとき鋼牙は、カオルの書いた絵本にそういう話があっただろうかと考える。
しかし、覚えがない。
そして、父・大河の言葉は続く。
「鋼牙、姫の唯一の騎士として、生涯、姫を守れ。いいな!」
この言葉に鋼牙は「はい」と返事をした。
すると小さな子ウサギは光を放ち、いきなり絵本を持った幼いカオルになる。
そして周囲の風景が一変。二人は森の中にいた。
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