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君の隣にいるために その15

 しかし、本当に自分はこの世界に戻れたのだろうか?
 なんとなくその不安が拭えない。
 不意に父、大河の言葉が蘇る。
「鋼牙、迷ったときは原点に戻れ」
 確かそんなことを言われたことがあった。何の話の流れだったのかは思い出せないが。

 そのとき彼は背後から声をかけられた。
「鋼牙……?」
 声の主が意外すぎて、彼は混乱をきたす。
「カ……オル」
 朝焼けの中で、カオルは少し離れたところにいた。
 別れたときに着ていたドレスと今の服が何となく似ているような気がする。
 脳裏には約束の地へいく前の牙狼の中での出来事が鮮やかに蘇った。
 だが、疲れの所為か彼女の姿は何となく揺らめいて見える。
「鋼牙、帰ってきてくれたのね」
 カオルは駆け寄ろうとする。
 鋼牙もまた腕を伸ばして抱きしめようとした瞬間、今度は彼の見ていた世界全体が歪んだ。それと同時にカオルの姿が消えてしまう。
『なんだ、これは! カオルが消えちまった』
 まさか自分の周囲に発生した、時空の渦に巻き込まれてしまったのだろうか?
 鋼牙は立っていられなくなり、くずおれてしまう。
「カオル……」
 最後の最後で……。
 彼は大地に手をつくと俯いた。そして握った手を地面に打ちつける。
(ならば俺がカオルを探す)
 どこに飛ばされていようとも、必ず見つけ出してみせる。
 鋼牙は立ち上がると、原点に戻ることにした。 


 原点。
 それは一番最初にこの世界に戻ってきたときの出口である英霊の塔。この世界での出来事は、ここから始まったのだ。
 中に入ると、様子はすっかり元に戻っていた。


『牙狼の称号を受け継ぐ者よ』
 英霊の声が聞こえる。
『ようやく元に……』
「待ってくれ、ここは俺のいるべき場所じゃない」
 この言葉にザルバが驚く。
『おい、鋼牙!』
「だから、最初に向かうべき場所に行かせてもらう」
 彼はそう宣言すると、最初に自分が放り出された場所を調べ始めた。すると、ある角度からその場所を見ると、七色の光の線が発生するポイントがある。
 その線の通りに魔戒剣を振るうと、七色の光は広がりを見せて、中から金色の細いネックレスのチェーンが出てきた。
『あのときの!』
 ザルバが驚きの声を上げる。
 ガジャリと大喧嘩したあとで、鋼牙が選んだ出口。その先に彼を導こうとしたはずのもの。
『行くのか』
 英霊は彼に問う。
「はい」
 鋼牙の返事に迷いはなかった。
『戻れぬかもしれないと分かっていてもか?』
「はい」
『ならば行くがいい。お前を待つ光の許へ』
 彼はその場で一礼すると、大事そうにチェーンを握った。そして再び切り裂いた空間の穴に入る。
 鋼牙が去っていった後、空間は再び閉じた。
 もう、時空のズレらしきものはどこにも見あたらない。