しかし、本当に自分はこの世界に戻れたのだろうか?
なんとなくその不安が拭えない。
不意に父、大河の言葉が蘇る。
「鋼牙、迷ったときは原点に戻れ」
確かそんなことを言われたことがあった。何の話の流れだったのかは思い出せないが。
そのとき彼は背後から声をかけられた。
「鋼牙……?」
声の主が意外すぎて、彼は混乱をきたす。
「カ……オル」
朝焼けの中で、カオルは少し離れたところにいた。
別れたときに着ていたドレスと今の服が何となく似ているような気がする。
脳裏には約束の地へいく前の牙狼の中での出来事が鮮やかに蘇った。
だが、疲れの所為か彼女の姿は何となく揺らめいて見える。
「鋼牙、帰ってきてくれたのね」
カオルは駆け寄ろうとする。
鋼牙もまた腕を伸ばして抱きしめようとした瞬間、今度は彼の見ていた世界全体が歪んだ。それと同時にカオルの姿が消えてしまう。
『なんだ、これは! カオルが消えちまった』
まさか自分の周囲に発生した、時空の渦に巻き込まれてしまったのだろうか?
鋼牙は立っていられなくなり、くずおれてしまう。
「カオル……」
最後の最後で……。
彼は大地に手をつくと俯いた。そして握った手を地面に打ちつける。
(ならば俺がカオルを探す)
どこに飛ばされていようとも、必ず見つけ出してみせる。
鋼牙は立ち上がると、原点に戻ることにした。
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