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君の隣にいるために その14

 約束の地で出会ったカカシ。鋼牙はこの世界でのカカシに会いに来たのである。
 しばらく物言わぬカカシと無言の対話をしていたとき、零が現れた。
 彼はサバックでの優勝により、鋼牙の父、大河から戦いの手ほどきを受けている。
 その流れで鋼牙の居場所を知ったらしい。


 海のそばで、二人の魔戒騎士が剣を交える。
 一人は黄金騎士牙狼の称号を持つ冴島鋼牙。
 もう一人は銀牙騎士、涼邑零。
 彼らは最初の数分で、この勝負がおもしろいことになると理解した。

 こうなると魔導輪たちの方は退屈だったりする。
 止めたって無駄な二人なので、ザルバとシルヴァは勝手に情報交換をしていた。

『──まぁ、大ざっぱにいうと時空を無理矢理越えたから、俺様たちの周辺の空間が不安定なんだそうだ。ということで、他の奴らへの連絡は待ってくれよ。一番に会いたかったカオルにも近づけないんで、鋼牙のヤツ気が立っているから』
 黄金騎士牙狼の相棒は言いたいことを言う。
「うるさいぞ、ザルバ」
 彼の眉間のしわが一層深くなる。
 すると魔導輪シルヴァが『あら、それは可哀想ね』と言った。
『でも、絶狼も似たようなものよ。サバックで優勝したあと、あの部屋で大暴れしたから、二晩くらいは一人で大人しくしていてくれって言われているのよ』
『何かあったのか?』
『あの部屋での侵入者退治でしょ。回復薬を服用したらさっさと体を休めろって厳命されているの。場合によると思った以上に体が疲弊しているはずだからって』
 ある意味、異世界で戦っていたようなものだった。鋼牙とは違う意味で。
「でも今、鋼と剣を交えなかったら、次はいつになるか分から分からないだろ」
 零は嬉しそうに言う。
 鋼牙はある可能性を冷静に口にした。
「そうだな。お前なら、時空の渦に巻き込まれても大丈夫だろう」
 この返事にザルバは大笑いをした。
 零は苦笑いをする。
「酷いヤツだな。俺、傷付いたから、カオルちゃんに夜のデートで慰めてもらおうっと」
 そう言った瞬間、彼は鋼牙の攻撃が急に鋭くなったことに気が付く。
「鋼牙! 今、本気で殺そうとしただろ!」
「そんな事はない」
 シルヴァは二人の会話に本気で呆れていた。 


 太陽が西に沈んでも、二人の勝負は決着が付かない。父の教えを受けただけあって、零の太刀筋は彼に昔を思い出させた。
 零の体を使って、今度は自分が父から教えを受けているような気がする。
 鋼牙は楽しかった。
 そのうち辺りに夜の帳が降りる。


 そして東の空が朝焼けになろうかという様子を見せたとき、二人の戦いに決着が付いた。
 双方の喉元にお互いの剣が寸止めで止まったのだ。
『これで終わりにしておけ』
『倒れても助けを呼ばないわよ』
 一晩中、二人の勝負につきあっていた魔導輪たちも、さすがに気疲れをしていた。二人が戦い続けられるように、ホラーの気配はないか注意してくれていたのだから。
 それが分かっているので、さすがに鋼牙も零もここで剣を納める。
 零は背伸びをした。
「あ〜っ、おもしろかった!」
 この言葉に鋼牙は少しだけ驚きの表情になる。
「鋼牙はどうだった?」
 彼は戸惑ったが、今の気持ちを素直に口にした。
「……楽しかった」
 こんなにも気分が高揚したのは、久しぶりかもしれない。
「夜のうちに鋼牙が消えるんじゃないかと思ったけど、大丈夫そうだし、俺は家に戻るよ」
「……」
「カオルちゃんと再会したら、適当なときに連絡をくれよ。それまではみんなに黙っているからさ」
 そう言って零はその場から立ち去る。

 空には真っ赤な朝焼けが広がっていた。