夢から覚めたカオルは、驚きのあまりベッドの上で上体を起こした。
「今の、何?」
それは強烈で鮮やかな夢だった。
カオルは忘れないように、そのときの印象をスケッチブックに描く。
早く描きとめないと、消えてしまう。
そんな思いに駆られて、この日の午前中はアトリエで絵を描くことに没頭していた。
──すごい、すごい、すごい!
カオルは誰かに言いたくて言いたくて、それを我慢して絵に集中している。
──鋼牙が夢に出てきてくれた!
──しかも朝焼けの海を背景にしていて、すごく格好良かった!
──でも途中で違う夢になったから、鋼牙と会話出来なかった……。
それはそれで非常に残念なのだが、もう一つの夢も何か意味深だったので、忘れないように絵で記しておく。
「でも……鋼牙に会えた」
カオルは涙を抑えることが出来なかった。
絵の方が一息つくと、家でのブランチもそこそこにカオルは公園へスケッチをしに出かけた。
天気はとてもよく、空は澄み渡っている。
夢の中で会えただけで、今日は良いことがありそうな気がした。
彼女はショールの下に隠れているネックレスを取り出す。閑岱の職人さんが作ってくれた、黄金騎士のペンダントトップ。
「いつになったら会えるかな」
大好きなあの人に……。
再びネックレスをショールの中に隠すと、カオルは公園を散策した。
公園中央の広場が見渡せる場所。そこには噴水が設置されている。
カオルは階段に腰掛ける。
先日まで新しい絵本発売のため、いろいろなところでサイン会をしていた。
今日は久々の休みである。
カバンの中には一冊の絵本が入っている。鋼牙の為に作った大切な本。
いつ鋼牙と再会出来てもいいように持ち歩いている。
彼女は丁寧にページをめくる。
ふと、噴水のオブジェに目をやったとき、自分の背後に白い羽が見えた。
「えっ……」
そして今度は鋼牙の姿。彼女は驚いて立ち上がる。
しかし、後ろを見渡しても鋼牙の姿はない。
(気のせいか……)
今朝の夢が鮮やかすぎたのだろうか?
なんだか寂しい気持ちで再び公園を歩く。
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