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君の隣にいるために その13

 合成体のホラーは、鋼牙に対して恐れを抱き始めた。
 自分の身から離れたエネルギーがいきなり周辺を照らし、相手が強い光を発している。視覚が上手く鋼牙の位置を関知出来ないのだ。
 傷も急に修復がゆっくりになる。
『今度は効いたみたいだな』
 すると今度は、ホラーの方が逃げ出した。大きな翼を羽ばたいて、傷口から闇を零しながら鋼牙たちから離れる。
 鋼牙は轟天を走らせたが、少しずつ引き離される。敵は死にものぐるいだった。
 しかし、鋼牙は諦めずに敵を追う。
 ますます引き離されたとき、どこからか白くて長細い光がふたつ、轟天と併走し始めた。
「ツキハシラ!」
 ひとつは形はハッキリしていないが、確かに約束の地で自分を助けてくれた存在。それがとんでもない速度を出すことを彼は知っていた。
 ツキハシラと呼ばれた光は徐々に轟天と鋼牙の鎧に溶け込む。それと同時に轟天の体に白い光が浮かび上がり、スピードが上がる。
 再び彼らの目に、合成体ホラーの背が見えてきた。


 黄金騎士の鎧もまた白い光をまとい、その形を変えていた。しかもザルバは思わず驚く。
『鋼牙、お前ってヤツは……』
 なおも同じように併走してくれているのは、幻ではあるが霊獣に似ている気がしたのだ。魔導筆に使われていた霊獣の毛が力を貸してくれたのだろうか。
 仲間が気に入っている(ように見える)カオルの想い人だから。

 鋼牙は牙狼剣を横に向けて持つ。剣は白く鋭い光を放っていた。
 そして轟天は合成体ホラーに追いつくと、そのまま横に並び追い抜かす。
 鋼牙の剣はその動きの通りに、合成体ホラーを真横に切り裂いていた。

 このとき、何処からか6本の槍みたいなものが異なる場所からやってきて、次々と合成体ホラーの身に突き刺さり術展開を始める。
 合成体ホラーの体に付いている界符は炎を出して消え、その体に『滅』の魔導文字が浮かび上がった。
 その瞬間、鋼牙らはエネルギーの奔流をくらう。溢れる光、そのエネルギーがもたらす圧迫感はものすごい。

   空間が目の前で裂ける。大量の術が一度に崩壊するとこういう危険があるという見本のような状態だった。
 とにかく周囲の空間が不安定な鋼牙たちはあっけなく時空に飲み込まれる。これで時空を超えるのは何度目だと、黄金騎士は逆に冷静になった。彼は自分の周囲を見回す。
 すると断片的に不可解な映像が見えた。
 このとき何かが零のところに向かった場面をみたような気がしたが、これは気のせいかもしれない。
 万が一にも生き残ったホラーが向かったのなら、零がすぐに倒すだろう。鋼牙は同胞に対して、そういうことでは心配をしてはいないかった。 


 そして彼らは再び別の空間に放り出される。
 目の前には見たことにある風景。着地は上手くいったが、体がとにかく疲弊していた。
『おい、鋼牙。やったな』
 ザルバが歓喜の声を出す。
「あぁ、そうだな」
 鋼牙は空を見上げた。

 それでも確認のため、英霊の塔の外壁に触ってみる。特に自分か石壁が透けたりはしない。どうやら元の世界に戻ることに成功したらしい。
 ただ、今度はここがいつの時代なのかはわからない。
『まずは英霊たちに会ってみようぜ』
「……そうだな」
 鋼牙は英霊の塔の出入り口に近づく。すると扉はいつものように開いた。
 ところが中に入ってみると、鋼牙はいきなり自分の身体に奇妙な空気の膜のようなものが出来ていることに気がつく。
 見上げるといつも降り注ぐ光が、淡い虹色になって塔の内部に拡散していた。

『牙狼の称号を受け継ぐ者よ』
 その声はいつもと同じに聞こえる。
「はい」
『お前の周囲の空間が安定していない。時間を置け』
 どうやら強引に時空を渡った為に、鋼牙を取り巻く空間が安定していないとのこと。このとき人や生き物などに会おうものなら、そちらが時空の歪みに巻き込まれる可能性がある、とまで解説してくれた。
 話が終わり彼は扉に向かう。
 ふと、何か違和感を感じた気がした。
「?」
 同時に周囲の七色の光が強まる。その鮮やかさは、彼にとって視覚的にうるさかった。

 英霊の塔を出たあと、鋼牙はザルバに尋ねる。
「ガジャリはこのことを知っていたと思うか」
 この問いにザルバはいつものように軽やかに答えた。
『さあな、知っていたかもしれないし、たいしたことないと思っていたのかもしれない』
 ガジャリに会うのか? と逆に尋ねられて、鋼牙は「今はいい」と答える。
 ちゃんと元に戻らないうちにガジャリに会うのは、鋼牙にとって敗北を意味しているからだ。
「それよりも行きたいところがある」
 彼は魔戒道を通り、目的の場所に向かった。
 今度はいつもの魔戒道だった。