『こいつ、俺様たちを保存食にするつもりだぞ』
敵地にて、ザルバは相手のしようとすることを素早く察した。
よく見ると、巨大な繭の周辺には小さな光の固まりがぶら下がっている。街灯ホラーであるルーザギンのコレクションだった男たちと同じような印象。
糸でこの黄金騎士を引き寄せようというのなら……。
鋼牙は逆らうことなく糸のつながっている先にある巨大な繭のような物体に突進する。そして糸の方がたるんだとき、界符と術にくるまれたそれに剣の一撃を与えた。
想像以上に堅い。剣の動きとともに、中から闇が溢れ出る。それは黒い霧に似ていた。
これにより彼をとらえていた糸もまた切れる。
「!」
中から複数の巨大な目が鋼牙を見ていた。
『鋼牙、こいつは悪食なだけだ』
ホラーの意識を関知したザルバが説明する。
「どういうことだ」
『好みも何もあったもんじゃないってことだ。それこそ身の毒になるものでも食っちまう。だから何をその身に取り込んでいるかわからないぞ』
ホラーと思われるものが、少しずつ鋼牙の与えた切れ目を修復しはじめる。
しかも繭玉もどきは明らかに武装形態になりつつあった。
『身を守るつもりだ』
鋼牙は剣先を前に構えたまま、切れ目から中に入り込む。すぐに何かしらの物体と接触するかと彼は思ったが、魔導によるものらしき光に包まれた繭の中には誰もいなかった。
厳密にいえば、問題のホラーが食べたのであろう者たちの遺品ともいうべき残骸だけは空中に浮いている。
周囲を見回していると、鋼牙の横を見たことのあるタイプの筆がふよふよと移動している。
彼はそれを手に取った。
『おい、魔導筆じゃないか!』
「魔戒法師も犠牲になったということか……」
そのうち魔導筆の柄の部分が朽ちて、霊獣の毛で作られた筆の先が鋼牙の手に残る。
それもまた、しばらくして鋼牙の手の中で光となって消えた。
このとき、彼は自分たちを見つめる視線を感じる。
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