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君の隣にいるために その12

『こいつ、俺様たちを保存食にするつもりだぞ』
  敵地にて、ザルバは相手のしようとすることを素早く察した。
 よく見ると、巨大な繭の周辺には小さな光の固まりがぶら下がっている。街灯ホラーであるルーザギンのコレクションだった男たちと同じような印象。
 糸でこの黄金騎士を引き寄せようというのなら……。
 鋼牙は逆らうことなく糸のつながっている先にある巨大な繭のような物体に突進する。そして糸の方がたるんだとき、界符と術にくるまれたそれに剣の一撃を与えた。
 想像以上に堅い。剣の動きとともに、中から闇が溢れ出る。それは黒い霧に似ていた。
 これにより彼をとらえていた糸もまた切れる。
「!」
 中から複数の巨大な目が鋼牙を見ていた。

『鋼牙、こいつは悪食なだけだ』
 ホラーの意識を関知したザルバが説明する。
「どういうことだ」
『好みも何もあったもんじゃないってことだ。それこそ身の毒になるものでも食っちまう。だから何をその身に取り込んでいるかわからないぞ』
 ホラーと思われるものが、少しずつ鋼牙の与えた切れ目を修復しはじめる。
 しかも繭玉もどきは明らかに武装形態になりつつあった。
『身を守るつもりだ』
 鋼牙は剣先を前に構えたまま、切れ目から中に入り込む。すぐに何かしらの物体と接触するかと彼は思ったが、魔導によるものらしき光に包まれた繭の中には誰もいなかった。
 厳密にいえば、問題のホラーが食べたのであろう者たちの遺品ともいうべき残骸だけは空中に浮いている。

 周囲を見回していると、鋼牙の横を見たことのあるタイプの筆がふよふよと移動している。
 彼はそれを手に取った。
『おい、魔導筆じゃないか!』
「魔戒法師も犠牲になったということか……」
 そのうち魔導筆の柄の部分が朽ちて、霊獣の毛で作られた筆の先が鋼牙の手に残る。
 それもまた、しばらくして鋼牙の手の中で光となって消えた。
 このとき、彼は自分たちを見つめる視線を感じる。 


『鋼牙、上だ!』
 彼らに襲いかかろうとしているのは、異形というよりもたくさんの生き物を人を含めて継ぎ接ぎにしたような存在だった。その継ぎ接ぎ部分には、界符のようなものがたくさん貼られている。
 そしてその背には、これまたバランスの悪い大きな翼を持っている。

──ヒカ……リ……ノ……ケモノ!

 歪んでいる口から、甲高い声で叫ばれる。
 鋼牙は鎧を召喚した。
『鋼牙、どうやらここでは制限時間はなさそうだ』
 ザルバの言葉に彼は頷く。
 もうここは、彼が生きて守っていた世界ではないのだ。合成獣ともいうべき姿の特殊ホラーは鋼牙を食い殺そうとする。
『本当に満腹中枢が壊れているヤツだな』
 鋼牙の剣が何度も相手の体を切り裂くが、合成体のホラーはすぐに回復してしまう。
 ただ、鋼牙は戦っていくうちに、相手がある方向に対して神経質になっていることに気がつく。
(向こうに何かあるのか)
 彼は轟天を召喚すると、わざとその方向に移動する。
 合成体ホラーはものすごいスピードで鋼牙たちを追いかけた。
『様子が変わったぞ!』
「このホラーは何かを守っている」
 もうすぐ轟天が追いつかれるというとき、それは彼らの前に現れた。
『魔導筆!』
 それも二、三本というレベルではない。少なくとも百本近くは空中に止まっている。

 大半は柄の部分は壊されており、霊獣の毛が広範囲に散らばっていた。
 まるで霊獣を一匹、食べた後のような印象さえ受ける。
 そのまま魔導筆の漂う空間で、鋼牙はホラーの攻撃を避ける。これらのものを邪悪なホラーの玩具にさせるわけにはいかない。鋼牙と轟天に当たって砕け散る柄。そして空中に舞う白い霊獣の毛は、光となって彼の体に入り込んだ。
 鎧と轟天の体が、強い輝きを放つ。
 合成体ホラーのたくさんの目が、眩しそうに彼らを見た。
「いくぞ!」
   鋼牙の渾身の一撃が、調和の取れていないホラーの体の一つを切り裂く。数枚の界符がホラーの体から切り離される。
 この瞬間、それの体から光の玉が出たかと思うと、チューブの中を通るかのように上へと移動した。
 そして天井と思われる場所に魔法陣のような文様を発生させると周囲を照らす。 


 同じ頃、その魔法陣は接続先である狂気の魔戒法師に、過剰にエネルギーを与えてしまう。
 そしてその敵対者である閃光騎士狼怒もまた、その余波を食らってしまった。