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君の隣にいるために その11

 そしていよいよ魔窟の調査が大詰めを迎えたとき、俺たち魔戒騎士に一つの指令が下った。
 これはグレス様からの依頼で、サバックの報償でもある‘死者に会える部屋’の守護だった。話によると、この部屋はあの場所と同調するのではないかという。
 確たる証拠はないとレオは言っていたが、この際レオの判断を尊重しようと、俺たちはサバックを開くことになった。何が起こるか分からない部屋なので、優勝者にその部屋の守護を一任しようということになったのだ。
 ところが現地にいる魔界法師から魔窟が急に不安定になってきたという連絡が入った。こうなると俺たちもさっさと優勝者を決めないとならない。下手をすれば魔窟のホラーがその部屋に逃げ込むかもしれないのだから。
 そこで殺し合い寸前のような激しいものは禁止という、力比べのスポーツみたいなサバックとなった。
 余力を残せと言われると、戦闘スタイルによっては不利な奴もいるだろうが、今回は仕方ない。
 重要なのはサバックの後なのだ。

 しかも選ばれた魔戒騎士などと言っている場合じゃないので、体力のある若い奴は全員参加になった。
 戦闘スタイルや能力、性格を加味して化け物屋敷封印の役目を負った魔戒法師の護衛を選ぶからだ。絶対に途中で魔戒法師に何かあってはならない。
 あとは結界がうまく作用しなかったときの為に、ホラー討伐要員が大量に必要だった。

 このとき俺はあることを考えていた。
 本当にレオの言うとおりなら、あの部屋が問題の屋敷と次元が同調した場合、そこにあいつが現れるのではないかと……。
『絶狼、準決勝よ』
「わかった」
 絶対に負けられない。
 俺は二振りの剣を動かして、ウォーミングアップを始めた。 


 勝負の結果は、俺の勝ち。次に翼と頂上戦を行った。
 これはすぐには勝負がつかなかったが、なんとか勝つことが出来た。お互いに余力は残しているから、次の任務に差し支えはないだろう。
 俺はレオから札を受け取ると、‘死者に会える部屋’に入る。
「シルヴァ、ホラーの気配はあるか?」
『特殊な気配は感じるけど、この部屋そのものが特殊なのよね』
 自分が一番に会いたいと願う死者に会える部屋だからな。
『今のうちに会っておいたら?』
「そうだな」
 確か願えば良いはず。
「……」
 ところが何の反応もない。会いたいと願った人の名を口に出しても無反応。
『もしかして……』
「すでに部屋は乗っ取られているのか?」
 戦闘開始だ。


 手に持っている特別製の界符が、細かく震えている。時々、火花に近いものが弾ける。界符の自己崩壊の予兆かもしれない。
 早すぎる。入ってから10分も経っていないぞ。今頃からレオたちの魔窟攻略が始まると思うのだが……。
『この部屋の時間の流れ、ちゃんとしていると思う?』
「思わない。部屋から出たとき。翌朝だったとしてもこの事態だから納得するよ」
 そんなことを喋っていたら、ようやく周囲の色が黒みを帯びてきた。しかも複数の場所から。
「いよいよだ」
そのとき、部屋中にあの男の声が響く。

──封印の界符など、私には効かない。

 やっぱりこいつが来たか!
 俺は剣を構える。
「それはどうだろうな」
 こいつには聞きたいことがある。だが、それを優先するのは危険だ。
 案の定、仲間のホラーを連れて来やがった。

──銀牙騎士、貴様の浅はかな正義感で、我々はメシアを封じる術を失った。

「何の話だ」

 先兵のホラーと戦いながらは結構キツいが、あいつの話を何とか聞く。

──あの娘の体ならば、たとえメシアでも封じ込められた。我々の悲願を貴様は!

 それはいつの話だ? カオルちゃんの一件の時はそんな話は一度も出なかった。
 つまり、いつの時代かわからないが、メシア討伐を大義名分にして魔戒法師の誰かが大暴走。人間の体を媒体にホラーを閉じこめる方法を見つけようとしたのか。
『絶狼、さすがに私も知らない話よ』
 俺も義父さんから一度も聞いたことない。
「シルヴァが知らないんじゃ、かなり前だな」
『何だか失礼な言い方ね』
「ごめん、ごめん」
 静香もごめん。静香はやっぱり俺の知っている静香だった。
 下手をしたら君の隣にいられなくなるところだった。
 それにしても、いつの時代だか知らないが、その銀牙騎士は偉い。いい仕事をしている。
 その娘さん、きっと感謝しているぜ!
「シルヴァ、今度、墓参りにいこう」
『そうね。二人にも教えてあげましょう』
 きっと義父さんも静香も同じ感想を言うよ。
 俺の心は軽くなったが、ホラーの方はもう一体増えた。さすがに集中しよう。


 それでも疲れを知らない動きを見せるホラーというはやっかいだ。界符は一枚しかない。封印の場所は召喚されたホラーではなく、それを使役するあいつの足下に付けないとならない。深刻な穴が開いているのはそこなのだから。

 何度かホラーたちの攻撃をかわしていたら、そのうちの一体が飛び道具として火の玉を出しやがった。
 無理に体を捻ったので、動きにロスが出る。
 ヤバイ!
 ホラーの攻撃を避けようと剣を動かしたとき、別の剣がホラーを食い止めてくれた。


「私を呼んだのは君か?」
 初めて聞く声だが、俺はそれが誰なのかわかった。
 冴島大河! 鋼牙の父親で先代の黄金騎士牙狼!!
「は、はい!」
 来てくれたんだ!
「そうか、ではこれらをまずは片づけよう」
 鋼牙と同じ構えだ。
 推測するに暴走した側の魔戒法師だったあいつは、次々とホラーたちをこの部屋に引き入れる。
 何体でも入れろ。俺は実戦で大河さんから戦い方を習う。
「よろしくお願いします!」
 もう気分は少年時代に戻ったかのようだ。

 俺は大河さんの後に続いた。