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君の隣にいるために その9

 真夜中のホラー狩りを終え、俺は家に戻ろうとした。
「さて、明日は天気が良さそうだし、久しぶりに遠出でもするか」
 カオルちゃんにケーキでも買っていって、彼女の近況を聞くのも悪くはない。気色悪い界符の一件からゴンザには、カオルちゃんの移動についてはこっちにも情報をくれといってある。
『北の管轄に行くの? 物好きね』
「だって、マメにカオルちゃんの様子を見ないと、何かあったら鋼牙に殺されるよ」
『マメに行く方が危ないと……』
 急にシルヴァが黙り込んだ。なんだ、なんだ?
『絶狼、エルバからよ。狼怒が怪我をしたって』
「なんだって!」
『元老院にすぐきて欲しいそうよ』
「わかった!」
 あいつ、また暴走したんじゃないだろうな! 俺は魔戒道を通って元老院へ向かった。


 そして元老院に到着してみると、レオがぐったりしたした様子で椅子に座っている。
 先程まで元老院にいた魔戒法師に治療してもらっていたようだ。
「どうした、レオ!」
「あっ、零さん。どうしてここに?」
 レオ、俺を見て心底驚いている。
「エルバが連絡をくれた」
 この返事にレオは自分の魔導輪と言い合いを始めた。
「エルバ、何で零さんに連絡を取るんだ」
『レオ、少しは叱られるんだね』
 こりゃぁ、エルバも怒っているみたいだ。ということは、俺が叱っても良いらしい。
「とにかく怪我の理由を言え」
「……ドジをしました」
 恥ずかしそうに笑っているんじゃねー。閃光騎士狼怒に怪我をさせるなんて、どんな奴と戦っていたんだお前は!
「レオ、俺の明日の用事を潰すほどの物じゃなかったら殴る」
「……」
 目を背けるな!
「よし、覚悟はいいな」
 こうなったら無理矢理吐かせる。
 俺の本気を感じたのか、レオは小さくなって答えた。
「すみません、一人で結界封印中の敵の本拠地に乗り込みました」
「敵の名は?」
「分かりません。たぶん、名前も伝わっていません」
「伝わってない?」
「話すと長くなるのですが……」
「お前の知っていることは一つ残らず話せ。隠し事をしたら許さん」
 それでもレオは何か迷っているようなので、これはもう速攻で邪美姐さん(いやもう、彼女は姐さんというにふさわしいと俺は悟ったね)に登場してもらうことにした。
 界符経由での連絡はやめて、翼も巻き込もう。ゴルバなら連絡も早そうだし。

 すると、ものの3分くらいで邪美姐さんが翼と烈花を連れて登場した。すぐあとからシグトも現れる。
 見事にレオは皆から説教をくらっている。でも、一番長いのが翼だったというのが失敗だったかも。まぁ、15分の休憩だとレオには思ってもらおう。精神的には疲弊しているかもしれないが。

 案の定、レオは翼の説教のあとは非常に素直だった。
 そしてレオのもたらした情報は非常に衝撃的で、俺たちは由々しき問題に関わったのだと察した。 


「魔戒法師がホラーを飼っていたとは……」
 しかも時代が古すぎる。
 今もそのホラーが生きているとしたら、とんでもない化け物になっているぞ。実際にそいつを飼っているのであろう魔戒法師は、もう人ではないらしい。
 不老不死を手に入れられるなら、人間、何でもやりかねないからなぁ。この問題の前には地位のもたらす理屈なんて吹っ飛んでしまう。
 俺たちに説明していくうちに、レオの表情に厳しいものが現れた。
「あいつは僕が同類だと言いました。ならば僕が刺し違えても、あいつを倒します」
 このとき俺は、レオを殴った。なんてことを言うんだ! ふざけんな!!
 他のメンバーも気持ちは同じだったらしく、邪美姐さんと烈花も激昂している。それを翼とシグトが抑えているのを見たら、急に冷静になってしまった。あの二人、レオを半殺しにしかねないぞ。
 俺はあいつの頭を軽く叩く。おい、正気に戻ったか?
「危険な場所での情報収集には感謝するが、最後のでマイナス点だ」
「……」
 本当に危なっかしい奴だな。昔の自分を見ているかのようで恥ずかしくなる。
「とにかく向こうの意識がカオルちゃんからレオに移ったんだ。多少の無茶はやれる」
「はい、囮でも何でもします」
 なかなか察しがいい。エルバには睨まれそうだが。
「よし、それならレオは体の回復を優先しろ。そいつをどう対処すればいいのかはこちらでも考える。器の好みがあまり固定していないということは、レオが無理だとわかったらまたカオルちゃんか他の奴に鞍替えしかねないからな」
 自分で言っておきながら、ありえそうな話にイヤな気持ちになった。
 カオルちゃんを巻き込むのは何としても避けなければならないが、鞍替えの相手が番犬所の神官だったりした場合、自分で何とかしろと言いたくなるときがあるからなぁ。
 非常に不謹慎な話だが。

 とにかく、まずは敵を知る必要がある。ということで情報収集なのだが、レオだけにやらせると暴走するかもしれないので、他の魔戒法師にも協力をしてもらうことにした。
「レオ、調査には必ず他の魔戒法師と一緒に行ってもらうよ」
 このとき邪美姐さんの表情に「謀をしています」という笑みがあった。これはもう、俺が何かをいう領域じゃない。


 それから約一週間は特に事態の進展はみられない。レオは閑岱の魔戒法師たちとともに、少しずつ問題の場所を調査しているという。
 なにしろ、もともと見たことのない界符の乱発、術の重ね掛けが行われている魔窟だ。そのまま無策で突入など死にに行くようなもの。少なくとも対応策が出来るまでは、魔戒騎士の俺たちも関わらない方がいいということになっていた。
 ところがあるとき、奇妙なことがあった。