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君の隣にいるために その8

「翼さんの勝ちだ」
 次々と封印が完了して、レオたちの周りの魔の濃度が極端に高くなってゆく。まるで真魔界にいるような気がしてくる。
 目の前にいる魔戒法師は、もう幻の存在ではない。
 すると相手はレオに感謝していると言う。

『──』

「なんだって……」
 その言葉にレオとシグトは絶句してしまう。
「この施設がホラー用蠱毒の実験場……」
 半永久的に回復し続ける特殊ホラーを有効活用するために、その力に取り憑かれた魔戒法師たちは、次々と術による生命の進化を行い続けた。ホラーも人間も、強き力を得たい魔戒法師も材料にして。
 その中で唯一、この実験に足りないのは聖なる存在だった。霊獣はもとより聖なる力を継承した存在も、ここに近づくことはなかったのだ。
 それが彼らの言う光の獣であり白き聖なる獣だった。
 今やその力を渇望したライバルたちは、白夜騎士・打無によってほとんど滅ぼされてしまったが。
 彼は可笑しそうに笑った。

「そんなことはさせない」
 レオは鎧を召喚する。封印をするのはシグトに任せていた。

『──』

「お前を倒し、この施設を永久封印する」
 そのチャンスは魔導列車を失っている今しかないのだ。誰かがこの施設に価値を見いだして、また何かと連動させるようなことはあってはならない。
「シグトさん、後はお願いします」
 レオは敵に向かって駆けだした。 


 鋼牙は弾き飛ばされた場所が先程とは様子が違うことに気がつく。
 目の前には巨大な何かが光の糸と大量の魔導文字でがんじがらめにされていた。その量が多すぎて実体が掴めないくらいである。強いて言えば繭玉に似ているかもしれない。
 彼は自分の右腕にも光の糸が巻きついていることに気がついた。
「かなりこの世界に近づけたようだ」
 鋼牙は腕を引っ張って、その糸を切ろうとする。
 だが、糸はますます彼の腕を締めつける。

『おい、鋼牙。こいつはホラーじゃないか?』
 ザルバが疑問符を付けるということは、ホラーに近い何かということかもしれない。
「名は分かるか?」
 その問いとザルバの叫びはほとんど同時だった。
『こいつはホラーのくせに、ホラーを食ったことがあるらしい!』
 その瞬間、鋼牙の腕がそれに向かって引っ張られた。 


 シグトが目的の場所に界符を貼り、術を発動させる。
 ところがちゃんとやっているはずなのに、結界が発動しない。

――ここでは、こちらが優位です。

 狂気に囚われた魔界法師がレオに告げる。相手の何かが、界符の効果を無効にしているのだ。
 狼怒の剣は敵の胴を薙ぎ払ったはずだが、相手は再びその傷を治癒している。
(問題のホラーと既に繋がっているんだ)
 これでは自分だけが消耗してしまう。
「シグトさん、そこから離れてください」
「レオさん!」
 レオは制限時間が来たのでいったん鎧を魔界へ返却すると、今度は兄シグマから譲り受けた魔導筆を持って構える。

「魔戒法師の力は生命を守るためにある」

 彼は術で敵を界符の方へ吹き飛ばす。
 そして素早く鎧を召喚すると、そのまま前進して人ではなくなった魔戒法師の身体ごと剣を界符に突き刺した。

『――』

 ホラー化した魔戒法師は狼怒の鎧に触ろうとしたが、魔戒騎士の鎧は表面が常に超振動しているので手が崩壊してしまう。
 しかし、異常な回復能力を持っているので、身体は再生を試みようとする。

「レオさん! ダメです」
 シグトはレオの行動に驚いて、大声を出す。
「シグトさんは早く脱出をしてください。このまま強制的に結界を発動させます」
 そうすれば界符は第二段階に入る。完全結界となれば零のところへは影響は出ない。
「エルバ、ゴメン」
 彼は自分の魔導輪に謝る。エルバは『仕方ないねぇ』と笑った。
 そのときレオたちのところへ他のメンバーがやって来た。
「何をやっているんだ、レオ!」
 目的地の異常事態に翼が近づこうとした瞬間、レオの足元が光る。

『――』

「結界を張ってくれて、感謝します」
 翼に怯えた敵の判断に、レオは思わず感謝の意を示す。
 ただ、レオにも時間はない。あとは心滅獣身化する前に界符を発動させないとならない。
 ところがいよいよと思った瞬間、足元の光が暴走したのである。

 レオは弾き飛ばされ、床に叩きつけられれる。
 そのショックで鎧は自動的に魔界へ戻ってしまった。
 ワタルがレオの身体を持ち上げる。
 翼と邪美、烈花が敵の動きをみたが、相手もまた今のショックで動けなくなっている。
「界符が発動しました」
 意識が遠くなる直前、レオはシグトの叫ぶ声を聞いた。


 レオを担いだワタルたちが洋館の外に出る。
 背後では建物に光の文様が浮き上がっていた。