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君の隣にいるために その7

 その頃、別の場所ではレオがシグトと一緒に目的の場所へ向かっていた。途中にはこの空間に巣くう奇妙な生命体が襲いかかる。それらの体には一枚の界符が張り付いていた。
(なんてことを……)
 レオはそれが何なのか、すぐにわかった。界符一枚で生き物を変容させる。それは禁断の技術の結晶だったのだ。
「あっ……」
 邪魔者を倒していくうちに、急に空気中に漂う魔が濃くなったような気がした。
「どこかが封印に成功したみたいですね」
 シグトがレオに話しかける。
「シグトさん、これからどんどん魔の濃度が高くなります。気をつけてください」
「はい!」
 レオは周囲を注意深く見る。
(封印が成功すれば、それが今度はこちら側の結界になる)
 その中にある魔の濃度が、今度は時空の違うところにいる敵をこの地に引っ張りだしてくれる。
 ただ、このときに倒せればいいのだが、完全に倒すことが出来なければ敵は零のいる場所に移動するだろう。
(なんとかくい止めないと……)
 しかし、ここは敵地ゆえ、レオは分の悪さも理解していた。
『レオ、ウルバから連絡だよ。なんだか様子が変らしい』
 エルバの突然の言葉にレオは立ち止まる。
「ワタルさんに何かあったのか!」
 すると四万十ワタルの声が魔導輪を介して聞こえてきた。


「レオ、ホラーたちの様子がおかしい」
「どうしたんですか」
「光の獣とか白き聖なる獣が現れたとかいって、そいつを追っていった」
 そのため簡単に封印が完了したという。
(光の獣? 白き聖なる獣??)
「霊獣がいたのですか!」
 思いつく存在を口にしたが、いくらなんでも霊獣はいない気がする。いたら調査段階でオリグスと接触しているだろう。
 では、古い時代にいたかもしれない存在だろうか?

「レオさん!」
 シグトの声にレオは前を見る。そこにいたのは一人の魔戒法師。

『──』

 彼は白き聖なる獣は最高の実験素材だと笑った。 


『ヒドい目に遭ったぜ』
「……」
 見知らぬ場所の壁に叩きつけられた鋼牙は、ゆっくりと上体を起こした。
 このとき彼は、周辺に薄く壁があることに気がつく。
「風景が変わった……」
『もしかして今の衝撃で現世に戻れたのか?』
 ザルバは喜んだが、壁のある風景はすぐに消えて再び周囲は白い混沌となる。
『惜しい! でも近づいたのかもしれないぞ』
「そうらしい……」
 鋼牙は右手を見ながら手を握る。もしかするとこの場所で戦えば、元の世界に戻れるかもしれない。
「いくぞ」
 彼は駆け出す。少し離れたところで複数の人影が見えたのだ。


 同じ頃、封印場所を目指していた翼と邪美はホラーや凶悪な生き物が次々と現れる為、前に進めずにいた。
 先ほど翼は一体のホラーを白夜騎士となって倒したのだが、それから周囲の様子がおかしくなったのだ。
 今や周囲の風景は室内というより真魔界のど真ん中というような広がりを見せている。
「ただでさえ不安定な空間が、真魔界と繋がっちまったみたいだねぇ」
 目的の場所など、いきなり遥か遠くになってしまっている。
 しかも素体ホラーの数が増えていた。
「この変貌はいったい……」
 その理由が判明したのは、ワタルからの通信だった。

「翼! 白夜騎士が器認定された!!」

 封印をすでに完了させた烈花と自分が一緒にそちらに向かっているから、持ちこたえてくれと言う。
「なんで俺なんだ!」
「ここのホラーたちは、白き聖なる獣という存在に執着しているらしい!」
 何の隠語だ? と翼も邪美も思ったが、待っている時間はない。敵側の増加が早いのだ。
「中央突破をするぞ」
「わかった」

 次の瞬間、翼は白夜騎士となって魔戒馬疾風を召喚し、邪美は術で高速移動用の道具を作った。
「お前は俺が守る! だからついてこい」
「頼りにしているよ」

 二人は封印場所へ突き進む。
 周りにいたホラーたちは次々と翼の攻撃に倒れていった。


 鋼牙は再び攻撃は魔戒騎士たちに任せて、魔戒法師の陰供に徹した。
 今回の敵である女のホラーは知能が先ほどのものよりも残っているらしく、魔戒騎士たちとの会話で鋼牙は状況を理解することが出来た。
 どうやらこの施設には強力な力を持ったホラーが一体封じられており、今まで出てきたホラーたちはそいつから力の供給を受けているとのこと。
 つまり魔戒法師たちの行った結界の効果が切れれば、今度はホラーたちが反撃にでるのだ。一応、魔戒騎士も魔戒法師もそれは理解しているようで、動揺はあっても素早く立ち直っている。
 すると彼らの対応を苦々しく思っていたホラーが、今度は意味不明なことを言う。

『聖なる力のニオイがするわ。お前たち、光の獣を隠しているね』

 彼らも何のことかわからず、一瞬戸惑う。
 だが、敵ホラーの目が喜びに輝いている。

『向こうの光の獣にみんな行って出遅れたけど、ここにいるとは嬉しいこと』

 他の奴ら、誰も気がついていないもの……。
 そう言って真っ赤で大きな口を開ける。そしてホラーは魔戒法師に向かって動く。
「……」
 鋼牙は素早く一撃を与えた。手応えは先ほどよりもある。
 ホラーの方はというと魔戒法師だと思っていたのに、別の何かによって自分が攻撃されたことに驚いていた。
 その隙を魔戒騎士の一人が背後からしとめる。

「今、光が……」
 呆然としている魔戒法師に、別の魔戒騎士が叱咤する。
「法師どの、早く!」
「は、はい」
 魔戒法師は封印場所の前に立つと、懐から界符を取り出す。鋼牙は次の衝撃がくるのがわかっていたので、今度は弾き飛ばされても壁に激突という事態は避けられるよう身構えた。
 ところが今度は何かが身体に絡みつくような感触があった。