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君の隣にいるために その5

 とにかく、その後は零さん経由で閑岱の人たちにも僕の怪我がバレた。急いで元老院にやってきた邪美さんには叱られ、烈花さんに文句を言われ、シグトさんには嘆かれた。何故か一緒に来た翼さんにも説教をされる。この間、約15分。連絡網はバッチリ機能しています。僕はそんな暢気なことをつい考えてしまった。
「本当に無茶はやらないでください」
 シグトさんの嘆きに、僕は何度も謝る。何しろ僕に情報を与えてくれた老人と、連絡がつかないというのだ。
 もしかして何かの罠だったんじゃないかと考えた直後に、零さんの連絡が来る。驚愕するのはもっともだ。
 でも、あの人は敵じゃないと思う。どんな理由でいなくなったのかは分からないけど。

「さて、何があったのか、洗いざらい喋ってもらうよ」
 邪美さん、目が据わっています。
 もう一回は怒られること覚悟して、僕は老人から聞いたことと結界内の事を話し始めた。

 昔、界符の開発に夢中になった魔戒法師がいたこと。
 その魔戒法師が回復能力の非常に高いホラーを捕らえて、結界内に閉じこめ、界符の効果を確認する実験動物にしたこと。
 推測として、魔戒法師はそのホラーに人間を与えていたらしいということ。

「なんと言うことを……」
 翼さんが呻くように呟いた。僕は話を続ける。
 今度は結界内で見たことについて。

 結界はもう限界に来ていた。なにしろその結界は、どんな経緯があったのか、魔導列車から力を供給してもらって機能していたのだから。
 そしてホラーは問題の魔戒法師が開発した界符を身にまとっていること。
 元凶である魔戒法師の意識が残っていること。
 そしてあいつは僕を器に認定したこと。

「あいつは僕が同類だと言いました」
 命を利用して望みを叶える魔戒法師。それが僕だと……。

──ならば僕が刺し違えても、あいつを倒します。

 そう決意を口にしたら、零さんに殴られた。
 しかも、邪美さんと烈花さんまで魔導筆を握りしめて僕を殴ろうとするのを、翼さんとシグトさんが羽交い締めにしている。
「翼! 止めるな!!」
「シグト、こいつを殴らせろ!」
 二人は激高していた。
「こいつは俺が殴る。お前じゃ止めを刺しかねん」
「烈花、レオさんを殺したらダメだ」
 もしかして命拾いしたのかな、僕は。
 呆然としていたら、零さんにもう一度軽く頭を叩かれた。
「危険な場所での情報収集には感謝するが、最後のでマイナス点だ」
「……」
「とにかく向こうの意識がカオルちゃんからレオに移ったんだ。多少の無茶はやれるだろ」
「はい、囮でも何でもします」
 カオルさんはこれで大丈夫なはず。あとは上手くあいつを結界内に存在させ、倒せればいい。
「よし、それならレオは体の回復を優先しろ。そいつをどう対処すればいいのかはこちらでも考える。器の好みがあまり固定していないということは、レオが無理だとわかったらまたカオルちゃんか他の奴に鞍替えしかねないからな」
 確かにそうかも。器認定がカオルさんに戻ってはならないし、魔戒法師なら誰でもいいと思われたらまずい。 


 それからの僕はみんなの協力を得て、あいつを倒す準備をした。
 結界内は時間をかけた調査により、6つの要ともいうべき場所があった。そこを制圧しないとあいつは結界内のどこかに逃げてしまう。そうなったら今度は中に入った人たちが危険にさらされる。
 そんなとき、元老院でグレスさまが'死者と会える部屋'の守護を言い出した。
 何重にも張り巡らされたあいつの結界が、どうもその部屋と構成が似ているのではないかということらしい。同じ人間が作ったのか。それとも関係者というレベルなのかは、もうわからない。ただ、似ている力場というのは何かのショックで共鳴するおそれがある。
 杞憂で済めば、それに越したことはないのだけど……。たぶん、共鳴する。そして向こうはそれを切り札にしている。
 あいつの考えそうなことは想像が付いた。


『レオ』
 エルバの声に僕は試合に意識を向けた。
 勝ったのは零さんだ。
 この界符を零さんに渡したら、僕と翼さんはあいつのいる結界に向かう。
 いよいよ決着をつけるときだ。

──レオ、お前はその刃をちゃんと鞘にしまえる。
 僕には僕を信頼してくれている人たちがいる。あいつとは違う。
 自分の狂気に飲み込まれたりなどしない。