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君の隣にいるために その4

 翌日、僕はシグトさんのところに行く。もしかするとシグトさんの師匠だったアカザさんの知り合いを、彼が知っているかもしれないと思ったからだ。
 彼の店である'あかどう'にて話を聞くと、確かに一人だけまだ連絡の取れる人がいるという。
「でも、この間連絡したとき、知らないと言われて怒られたんですよ」
「もう一回、お願いします」
 こうなったら、布道の名前と涼邑零、道寺の連名でお願いした。
 すると会いたいから店で待っていてくれとの返事。シグトさんは目を丸くして、僕の顔を見ている。
「どんな術を使ったのですか?」
「僕も分かりません」
 でも、効果があったのは二人の銀牙騎士の名前だと思う。その人にとってどんな意味があるのかは分からないけど。


 しばらくしてかなり年輩の老人が店にやってきた。シグトさんが対応すると、老人は怒りながらも僕の方を見る。
「レオさん、この人がレオさんにだけ話したいそうです。オレは店にいますから、二人で地下におりてください。それから彼の名前は聞かないでください。レオさんの迷惑になりますから」
 その言葉に驚いたけど、それこそ事情は聞いてはいけないのだろう。シグトさんがあとでお茶を用意すると言って、地下室に続く階段に案内してくれた。

 そして僕は老人から驚くべきことを聞く。
 それはこの事件の答えであり、情報が表に出てこない理由でもあった。

──これは口伝でのみ残せるものじゃ。

   つまり明文化してはいけないもの。だからいくら過去の情報を探しても出てこないはずだ。知っている人間は口を閉ざしていたのだから。
 聞いた僕自身、心が重い。
 話を終えた老人を見送ると、僕は緊急事態と言うことで一人で問題の場所に行くことにした。

『大丈夫かい? レオ』
「大丈夫、無茶なことはしないよ」
 本当に彼の言っていることが正しいのか確認をしないと、皆に情報を伝えられないからね。
 僕は魔戒道を作ると、目的地のそばに向かった。 


 ところがあいつは僕の想像以上の難物だった。結界はなんとか維持をしているという状態。何しろ、結界を支えていたものが、もう既にこの世に存在しないのだから。
 慌てて応急措置を取った。
 しかし、それが僕の存在をあいつに教えることになってしまった。

 エルバからさんざん警戒しろと言われていたのに、僕は情報収集にいつの間にか夢中になっていたらしい。なにしろ結界内にあちこちに見える界符は見たことのないものばかりだった。その中には妙な張り紙のようなものもある。空中に現れては消える文字たち。
 これらの情報を正しいとするならば、あいつは自分がこの世に出るための器を探していた。それに選ばれた一人がカオルさんだった。メシアの一件で、カオルさんはそういうものに好かれやすくなってしまったのだろうか。
 それと霊獣の気が悪い方へ作用したのかもしれない。
 目の前に何かの映像がチラチラと現れる。何だろうと意識を集中した。
『レオ、気をつけなさい』
 触手のようなものが突っ込んできた!
 紙一重で避ける。

 目の前の映像が急にハッキリする。そして魔戒法師っぽい人が見えた。

『────』

 しまった、僕の意識と同調している! あいつは僕を器にするつもりだ。

『────』

 この結界を作ったのは狂った魔戒法師。僕にもその素質があると、あいつは笑う。
『レオ、聞いちゃいけないよ』
 とっさに狼怒の鎧を召還した。周辺の空気が爆発する。

『────』

 この結界は何重にも仕組まれている。ここまで来れたのは、向こうが僕をおびき寄せたからだ。
 早く脱出しないと……、取り込まれる……。


 鎧の召喚時間をギリギリまで使って、ようやっと僕は脱出できた。とにかく疲労が半端じゃない。
 でも、ここにいて気絶でもしようものなら、あいつに体を乗っ取られる。僕は最後の力を振り絞って、元老院へ戻った。

 その後、なんとか元老院に到着。そのまま床に倒れてしまう。気絶はしなかったけど。床に倒れている僕に気が付いた魔戒法師の女性が、その場で僕をある程度回復させてくれた。
 何度もありがとうと言った気がするけど、あのときは意識が朦朧としていて、誰がやってくれたのか顔が思い出せない。
 彼女は人を呼ぶと言って、それっきりになってしまったから。

 そしてエルバも零さんをシルヴァ経由で呼んだから、この後思いっきり怒られた。

「レオ、俺の明日の用事を潰すほどの物じゃなかったら殴る」

 あのときの零さんの目は非常に怖かったです。殺されるかと思った。


『なかなか白熱しているねぇ』
 エルバの言葉に、僕はハッとする。
『……レオ、また反省しているのかい?』
「ずっと反省しっぱなしだよ」