朝日がかなり昇り、『木』のあった場所には何もなくなっていた。
「鋼牙、あの鳥さんたちは何っていう名前なの?」
カオルの問いに鋼牙は、どう説明しようか迷う。
『鋼牙、カオルが何か聞いているぞ』
そしてザルバは余計な口出しをするが、助ける気はないらしい。
しばらく二人は見つめあう。
この沈黙がおかしかったのか、邪美がカオルに笑いをこらえながら話しかけた。
「あの鳥たちは『木』に巣を構えていた精霊だ」
「精霊!」
カオルは目を輝かせて、邪美を見る。
「おい、邪美!」
翼が止めようとしたが、鋼牙に止められた。
この中でカオルだけがあの鳥を知らない。というか、酔っぱらったことすら忘れている。
本当のことを言えない場合、建前は必要だった。
「すごく巧く隠れていたから、閑岱の方でも知らないはずだ。だから、名前はあたしたちも知らない。適当に『守護役』と言っていたからね。今回は、たまたま牙狼が嫁を連れてきたから、好奇心で現れたらしい。そうそう、どうも人間が好きみたいだから、このまま居なかったことにすると、また里に来てくれる可能性がある。だからカオルも閑岱の人には黙っていてくれないか?」
──妖精は人に正体を知られると、二度と現れなくなる。
絵本作家でもあるカオルは、この手の話は嫌いではない。
しかも今回、彼女にとって不思議がいっぱい詰まった閑岱で聞かされたのだ。
彼女は「わかったわ!」と、嬉しそうに何度も頷いた。
これによって、他のメンバーも沈黙を守ることを約束する。
もう証明の出来ないことを他の人に喋っても益はないし、うっかり元老院あたりの耳に入れば、羽根をよこせと言い出す可能性がある。それでは守護役たちの気持ちが無駄になってしまう。
規律に関しては考え方の固い鋼牙や翼も、今回は邪美の判断に無言で同意した。
「でも、守護役さんたち、木がなかったらここへ戻れないよね。種が落ちてないか、ちょっと探してくる!」
彼女は木が枝を広げていた範囲の地面に、種らしきものが落ちていないか探し始める。
その行動に、鈴とレオ、烈花も協力し始めた。
翼は鈴に無理矢理協力をさせられる。
|