「さて、あたしたちも帰るか」
とんでもないお月見になってしまったが、気分的にはさっぱりしているかもしれない。
「そういえば、カオルは自分の匂いを覚えているかい?」
邪美に突然聞かれて、カオルは首を傾げる。
「匂い?」
「'月光芳'だよ。あの酒を飲んだ女性は、一晩中、花の香りがするはずなんだよ」
そう言われて、烈花も自分の手首を鼻に近づける。
特にそのような匂いは感じない。
「しかし、惜しかったねぇ。あの酒には伝承があって、一つの酒杯の中身を分けあって飲んだとき、それが運命の男女の場合は同じ香りになるそうだよ」
しかしこれは、あくまで伝承。人間の体臭なども考慮すると、同じになることはまずないらしい。
ということで、普通は女性だけが飲んで、男性はその花の香りを楽しむという使い方をするという。
恋人同士や夫婦が伝承を確認しようとすると、後でいろいろと面倒な事態になるから。
この瞬間、鋼牙、翼、レオはそれぞれ驚くやら残念そうな、微妙な表情になる。
「邪美……、それを知って、あんなことをさせたのか」
魔戒剣を持って話しかける鋼牙の声は、何処か激情を抑えている雰囲気があった。
しかし、邪美は特に気にしてはいなかった。
「伝承だよ。それに全員が酒を飲んでいるんだ。区別が付くわけないだろ」
徳利から漂う匂いからして、結構強かったのだから。
『なるほどねぇ』
ザルバは何かを思い出したのか、ニヤニヤした。
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