邪美はしばらくして強烈な睡魔に襲われた。
これは危険だと思い、自分が眠ったりしないように、守護役たちに何でも良いから話を聞かせて欲しいと頼む。
とにかく強烈に眠たい。何もかもを放り出して眠りにつきたい。魔戒樹の体内にいたときのことを思い出してしまう。
すると守護役たちはここに閉じこもっていた仲間の話をする。とても優秀で、とても人間が好きだった守護役。
しかし、レギュレイスによって大勢の人間たちが殺されたことで、彼はおかしくなってしまう。
何せ鷹麟鳥の矢は、確かにレギュレイスを滅ぼす力があるが、同時に栄えさせる力もまた持つのだ。
どうして?
この言葉は鷹麟鳥の守護役である己の存在もまた、あやふやなものにしてしまう。
そんな中で人間の友を助けようとして、レギュレイスの毒を彼は身に受けた。毒はゆっくりと彼の体を蝕む。
しかし、人間と違いすぐにレギュレイスと同化したり、命を落とすことはなかった。
そして彼は閉じこもってしまう。
しかし、彼はそれでも人を好きであり続けた。
──ほらートノ戦イ。我々、知ッテイル。
百年単位の間隔で、守護役たちは人間世界に住み着く。
ここ数百年くらいは閑岱の里に紛れ込んでいたという。
──古イ情報。消滅サセナイ。
人間たちが重要な事柄を消したり改竄させないよう、彼らは彼らなりに動いた。
その中でもたまに気をつけないとならないのは、レギュレイスとヴァランカスの実に関する事柄だった。
「どうして……だい?」
ときどき返事をしないと、邪美は眠気に勝てなくなりそうだった。
守護役たちはお互いに顔を見合わせると、また話を進める。
──れぎゅれいすハ人間ガ勘違イヲスル。
長い間現れなかったからといって、レギュレイスは滅んだなどと資料に書かれたら大変なことだし、ヴァランカスの実については人間側が抹消しようとしていた。
「あぁ、救いの道があるなんて知ったら、鋼牙のように動こうとするからね」
最愛の人を死の淵から救い出せるなら、グラウ竜に戦いを挑む者もいるだろう。
しかし、それは本来実力と運の良さがないと成立しない。
邪美は過去に、ホラーの血に染まりし者たちの死を見ることになった魔戒騎士や魔戒法師たちがたくさんいたのだろうと想像した。
(被害者が最愛の人ならば……狂ってゆくだろうねぇ……)
そんな事例があれば、人間側は自衛策として情報そのものを消すこともするだろう。
救いの道がなければ、人は諦めるしかない。
──デモ、諦メル事ヲ覚エタ人間ニ、れぎゅれいすハ倒セナイ。
「そりゃそうだ。あたしだって……鈴の命を諦めるつもりはなかったよ」
そして当のレギュレイスは、魔戒騎士・魔戒法師たちの中で一番あきらめの悪い男が倒したのだ。
守護役たちは先見の明があるかもと、邪美は笑った。
──トコロデ、貴女ハ実ヲ手ニ入レタ者ヲ知ッテイルノカ?
「知っているよ」
──デハ、言付ケヲ頼ミタイ。
守護役たちはたった一つのことを、邪美に伝えた。
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