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君の隣にいるために 番外編 2 その16

 邪美はしばらくして強烈な睡魔に襲われた。
 これは危険だと思い、自分が眠ったりしないように、守護役たちに何でも良いから話を聞かせて欲しいと頼む。
 とにかく強烈に眠たい。何もかもを放り出して眠りにつきたい。魔戒樹の体内にいたときのことを思い出してしまう。
 すると守護役たちはここに閉じこもっていた仲間の話をする。とても優秀で、とても人間が好きだった守護役。
 しかし、レギュレイスによって大勢の人間たちが殺されたことで、彼はおかしくなってしまう。
 何せ鷹麟鳥の矢は、確かにレギュレイスを滅ぼす力があるが、同時に栄えさせる力もまた持つのだ。
 どうして?
 この言葉は鷹麟鳥の守護役である己の存在もまた、あやふやなものにしてしまう。
 そんな中で人間の友を助けようとして、レギュレイスの毒を彼は身に受けた。毒はゆっくりと彼の体を蝕む。
 しかし、人間と違いすぐにレギュレイスと同化したり、命を落とすことはなかった。
 そして彼は閉じこもってしまう。
 しかし、彼はそれでも人を好きであり続けた。

──ほらートノ戦イ。我々、知ッテイル。

 百年単位の間隔で、守護役たちは人間世界に住み着く。
 ここ数百年くらいは閑岱の里に紛れ込んでいたという。

──古イ情報。消滅サセナイ。

 人間たちが重要な事柄を消したり改竄させないよう、彼らは彼らなりに動いた。
 その中でもたまに気をつけないとならないのは、レギュレイスとヴァランカスの実に関する事柄だった。

「どうして……だい?」
 ときどき返事をしないと、邪美は眠気に勝てなくなりそうだった。
 守護役たちはお互いに顔を見合わせると、また話を進める。

──れぎゅれいすハ人間ガ勘違イヲスル。

 長い間現れなかったからといって、レギュレイスは滅んだなどと資料に書かれたら大変なことだし、ヴァランカスの実については人間側が抹消しようとしていた。

「あぁ、救いの道があるなんて知ったら、鋼牙のように動こうとするからね」
 最愛の人を死の淵から救い出せるなら、グラウ竜に戦いを挑む者もいるだろう。
 しかし、それは本来実力と運の良さがないと成立しない。
 邪美は過去に、ホラーの血に染まりし者たちの死を見ることになった魔戒騎士や魔戒法師たちがたくさんいたのだろうと想像した。
(被害者が最愛の人ならば……狂ってゆくだろうねぇ……)

 そんな事例があれば、人間側は自衛策として情報そのものを消すこともするだろう。
 救いの道がなければ、人は諦めるしかない。

──デモ、諦メル事ヲ覚エタ人間ニ、れぎゅれいすハ倒セナイ。

「そりゃそうだ。あたしだって……鈴の命を諦めるつもりはなかったよ」

 そして当のレギュレイスは、魔戒騎士・魔戒法師たちの中で一番あきらめの悪い男が倒したのだ。
 守護役たちは先見の明があるかもと、邪美は笑った。

──トコロデ、貴女ハ実ヲ手ニ入レタ者ヲ知ッテイルノカ?

「知っているよ」

──デハ、言付ケヲ頼ミタイ。

 守護役たちはたった一つのことを、邪美に伝えた。 


 地上では『木』がたくさんの光の粒子をばらまく。
 烈花と鈴はただ、その様子を見守るしかない。
 夜なのに、『木』の周辺は昼間のように明るかった。


 対レギュレイス兵器の頭部に現れたレギュレイスの偽物は邪悪そうな笑みを浮かべる。
 そしてその手で、胸のクリスタルを覆う。攻撃をすれば壊すという仕草だ。鋼牙は鷹麟の矢の破片で作られた矢を握りしめる。
 しかし、彼はすぐさま決断した。

「亡霊を縁(よすが)とする貴様の陰我は、俺が断ち切る!」

 このとき鋼牙は自分に力を貸す守護役が囀る声を聞いた。それと同時に鷹麟の矢の破片が砕けて、鋼牙の牙狼剣に吸収される。
 剣は異形の姿へと変貌した。
『──』
 守護役は鋼牙に、貴方は鷹麟の矢に一度馴染んでいたようなので、この形にさせてもらったと言う。
 滅ぼすべき相手が友であるからこそ、一撃で終わらせて欲しい。そんな願いを鋼牙は相手から感じ取る。
 「承知した」
 黄金騎士・冴島鋼牙は剣を構える。轟天は大きな翼を広げて、敵に突進した。
 対レギュレイス兵器の手がクリスタルをむしり取る。そして斜め下へ放り投げた。
 それでも彼らが迷わずに接近したとき、轟天の姿は敵の視界から消え、相手はその現象に意識をもっていかれる。

──同ジ匂イ。暖カイ……。

 深々と偽のレギュレイスの頭に刺さる牙狼剣。
 偽者の顔は本体の中に入る。落ちそうになった彼は再び轟天に乗り込んだ。

(──コノ身……ヲ処……ス)

 すると一斉に三重詠唱が終了し、魔戒騎士たちに協力している守護役たちが撤退すると言った。
 鋼牙は飛ばされたクリスタルを追いかける。
 その黄金の翼が力強く羽ばたいた。


 零は対レギュレイス兵器の尾が火花を散らし始めた事に気がつく。
「あれは!」
 そしてその尾は、体を丸めた兵器側の行動により、クリスタルを失った兵器の胸に入り込む。
 このとき、彼は兵器の向こう側で気を失って落ちようとしているレオに気がついた。
「やばい!」
 レオと一緒にいた守護役が何とか彼の体を捕まえるが、完全にお荷物状態になっている。
 零はとっさに鎧を解除すると、魔導馬・銀牙の背にレオを乗せる。

──交代しましょう。

 老守護役は、レオを補佐した守護役と銀牙への協力を交代した。力と早さを考えたら、こちらの方が生き残る確率が高いからである。
 銀牙の翼が紺色に近い紫のような翼になった。早さも格段に違う。
 そして零は自分の横を飛ぶ老守護役が、燻し銀の体色であることを、このとき初めて知った。


 翼もまた、この場から離れるよう守護役に言われた。
「奴の言葉を信じるのか!」
 その問いに守護役は信じると答える。彼は最後の最後に、守護役として正気になったのだからと……。
 そして相手は言葉を続けた。
 我々の世界はいったん崩壊する。だから貴方の仲間を連れだして欲しいと……。

 このとき翼の脳裏に、薄暗い部屋で横たわっている邪美の姿が現れた。
「邪美!」
 何かの理由で出られなくなっているのかもしれない。
 翼は守護役の案内で、『木』の世界へと向かった。


 そして鋼牙はそのまま轟天でクリスタルを追いかける。
 もうすぐ手が届くというとき、背後で強い光が発生した。