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君の隣にいるために 番外編 2 その14

 第二兵器は動きを止め、他の兵器と違って自己崩壊を始める。
 鋼牙は巻き込まれないように轟天に飛び移ると、ようやく空を見上げた。
 実際に魔法陣だと思っていたものは、今度は次々と光の鳥の形となり図柄が崩れてゆく。そして翼が率いているかのように、彼の後ろに続いた。

 このとき、第二兵器の自己崩壊がピタリと止まる。


 闇が静かに忍び寄る。
 夜空にあった。
 鈴は背後に何かの気配を感じた後、思い出したくもない声を再び聞いた。

──レギュレイス一族復活の生け贄よ……。

 彼女は急に左肩の付け根に痛みのようなものが走る。
「おまえは!」
 輪の叫びにレオと烈花は事態の異様さに気がついた。
 笠をかぶった白い亡霊が、鈴を俯せにして押さえつけているのだ。
 その手には細い矢のようなものが握られていた。
「鈴!」
 レオも烈花も初めて見る存在に、一瞬だけ動きが止まってしまう。
 このとき、亡霊の背後から守護役が襲いかかる。


 邪美は界符の中でも破壊系の術を発動する。
 すると透明な壁が粉々に砕けた。


 一瞬、相手が怯んだ隙にレオと烈花の術が双方で発動する。
 自分たちと一緒にいる守護役は反射スピードが桁違いであると分かっているので、躊躇わない。
 案の定、守護役はすぐさまその場から離れ、亡霊の方は霧散した。

 俯せのまま起きあがれない鈴を烈花が抱き起こす。
「大丈夫か!」
 すると鈴は「カオルさんは……?」と彼女に尋ねる。
 レオと烈花はカオルの姿を探し求めたが、白い着ぐるみのような上着を着た人物の姿は消えていた。
 ただ、鈴の近くには亡霊の持っていた矢が一本、落ちている。
 レオはそれを拾ったとき、鏃(やじり)に使われているのが問題の鷹麟の矢の破片だと察した。 


「翼、第三兵器はどうなった?」
 零が神々しく現れた友に尋ねる。
 すると彼は「機能を停止させたあとこちらの方へ逃亡したが、バラバラになりながら消えた」と答えた。
 だからこちらへ来たということだった。

 このとき、レオからエルバ経由で緊急の連絡が入る。
 カオルが正体不明の敵に連れ去られたというだ。
 そして鈴の危難もまた知らされた。


 今や第二兵器は自己崩壊牙が止まり、今度は部品が空間を漂っている状態だった。第二兵器はこれで破壊したということになるのか、それともまだ何かあるのか分からない状態。
 そんな中で鋼牙は表情を変えずに聞いているが、ザルバは彼が動揺に耐えているのだとすぐに分かった。

──鈴さんは、レギュレイスの偽物だと言っています。似ているけど違うと……。

 前回の天魔降伏の儀のとき、レギュレイスに殺されそうになった少女は、誰よりも敵の傍に長くいた。
 その彼女が「本物ではない」と言っている。
「それじゃ、偽物だ」
 零は鋼牙の方を見る。鋼牙もまた頷いた。
 レオからの連絡は続く。

──それと邪美さんからの連絡です。大昔にレギュレイスの毒を身に受けた守護役が消えたそうです。その方は対レギュレイス兵器を設計し作ったということなので、カオルさんはその方と一緒だったということになります。

 しかし、これだけでは状況証拠であって、その守護役がレギュレイスの偽物となり鈴を襲ったと断言はできない。
 限りなく怪しいが、その先に命のやり取りがある以上、彼らは間違えたという結果は避けなければならなかった。

──こちらに鷹麟の矢の破片で作られたであろう矢があります。

   使う必要があるなら言ってほしい。その言葉に鋼牙は「持ってきてくれ」と伝えた。
「鋼牙。鷹麟の矢を地面に潜らせるのか!」
 翼が驚く。
 鷹麟の矢を地面に突き刺せば、レギュレイスとその眷族が世界に満ちあふれるという伝承を一番聞かされ続けていたのだから。
 ただ、今は白夜ではない。そしてレギュレイスもいない。
 亡霊だけが残って暴れているのだ。
「まぁ、こんな膠着状態じゃ、千年経っても何も変わらないからな。それなら向こうに動いてもらうだけだ」
 零は鋼牙の案に賛成する。
「銀牙も爺さんも付き合ってくれよ」
 魔戒馬・銀牙が大きく縦に首を動かした。
 二人の称号持ちが覚悟を決めているのなら、翼もまた「わかった」と言って、空中に漂う部品たちを見る。
 自分の大事な妹を殺そうとする者とは、断固として戦う。
 彼は自分の背後にいる光の守護役たちに戻るよう告げた。
 しかし、彼らは動かなかった。


 しばらくしてレオから「そちらに入ります」という連絡がきた。
 それと同時に、漂っていた部品たちが明らかに何かの意志を持って動き始める。
 一番最初に逃亡した第一兵器が、他の二つの部品を武装の素材にして彼らの前に現れたのだった。