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君の隣にいるために 番外編 2 その13

 鷹麟の矢。
 それは諸刃の武器。
 白夜の夜に現れる『レギュレイスとその一族を復活させる為の結界』を破壊する力を持つ。
 しかし、この武器は日食の日に大地に突き刺すと、レギュレイスとそれに連なる者たちで世界は覆われるという。


 第三の兵器はゲートを出ようとするが、ゲートそのものよりも己の体の方が大きかった。
 そのため、うまく外にでることが出来ずに上半身を大きく動かして暴れる。
 そんな状態で白夜騎士・山刀翼の渾身の一撃は、見事に異形の竜の後頭部に突き刺さる。
 目的の場所はそこから少し離れているが、レオから攻撃しても影響のない場所が限定されていると教えられていた。
 そのため、どうしてもあとは自力で目的の場所に移動しなくてはならない。
 しかし、第三兵器は翼を振り払おうと頭を動かす。
 そして彼が引き離されそうになったとき、地上ではレオが一か八かの勝負に出た。
 第三兵器が最優先に行動する攻撃パターンを行わせれば、一瞬でも敵は翼の存在を忘れる。
 レオは第一兵器の弱点だった場所に近づくと、その場所に触れたのだった。

 この瞬間、第三兵器の動きが一瞬止まる。
 何かが切り替わるために、動きがついてゆけなくなったのだ。
 レオは反射的に異形の竜から離れる。
 その早さたるや、烈花も鈴も目が追いつかなかったくらいだ。

 翼は素早く駆け出すと、第三兵器の頭の頂点に隠されていた能力停止用のボタンを押すことに成功した。
 第三の兵器である異形の竜は、再び大地に潜ろうとする。
 翼は再び魔導馬・疾風に乗り込んだ。
「レオ、鈴たちを頼む!」
 彼はそう言って、竜の消えたゲートに愛馬とともに飛び込む。
 その後を、今まで木に留まっていた光の鳥たちが追う。
 まるで鷹麟鳥の守護役たちが白夜騎士に従っているかのような光景だった。


 レオは鎧を解除すると、エルバに翼たちと通信が出来るかを確認した。
 そんな彼の隣には、暗い夜の闇にとけ込みそうな色の体を持つ、奇妙で大きな鳥がいた。
 金属っぽい体が、焚き火の明かりに照らされる。
『大丈夫。ザルバもシルヴァもゴルバも返事をしてくれたよ』
 三体のうち二体は機能が封印されている。
 残りの一体もたぶん時間の問題だとレオは思った。
 ただ、その先で何があるのかが想像がつかない。
「レオ、その鳥が守護役なのか?」
 彼の方が一段落ついたかな? と、思えたとき、烈花が鳥について尋ねる。
「そうです。守護役たちの中で一番のスピードを誇るそうです」
 そして魔導馬を持たない彼の身軽さが、幸いしたのかもしれない。なにしろ地上へは、一瞬という言葉がふさわしい時間で到着したのだから。
 ただ、直に体に過剰な力を与えられたので、レオはかなり疲労を感じていた。
 彼は空中に現れている、異形のものたちの設計図を見あげる。
 新しい情報は、まだ無い。 


 そのころ、鋼牙と零は第二の兵器の右肩を狙って動いていた。
 しかし、相手は素早く動く為、触るどころか近づくことも困難な状態。
 ところが上空で謎の魔法陣が現れる。
「えっ……」
 この現象には零も驚く。
 第二兵器もまた、首をあげて魔法陣の方を見る。
 このとき鋼牙は脇目もふらず目的の場所に降り、第二兵器の機能停止ボタンを押したのだった。


「どうしたの?」
 カオルは鳥の影に話しかける。
 鳥は金属っぽい体を持っており、もう影とは言えない。
 鳥は高らかに歌う。
「これから出かけるの?」
 カオルの問いに鳥が翼を広げる。
 このとき周辺の空気が震えた。そしてカオルは知っている女性の声を聞く。

──カオル! いるなら返事をしろ。

 邪美の声である。どこかで扉を叩いている音のようなものも聞こえた。
「邪美さん?」

──カオル、早く部屋から出るんだ!

 邪美の切羽詰まった声に、カオルは何事かと慌てる。
「何だかか分からないけど、この部屋から出た方が良いみたい」
 着ぐるみを着ている状態のカオルが立ち上がる。
 しかし、出口がどこなのか分からない。
 鳥の顔を見ると、鳥は首を横に向けた。
「あっちに出入り口があるのね」
 カオルが歩き出すと、鳥もまたその後ろをピョコピョコと追いかける。
 そして今まで床に描かれていた図柄が薄くなり、後には何もなくなった。


「この部屋にカオルがいる!」
 邪美はとある部屋の前で透明な壁を叩く。
 何羽かの守護役たちが集まる。
 彼らの人間に対する片言の説明曰く、中にいるのは過去にレギュレイスの毒に身を侵された仲間がいるという。
「レギュレイスの毒だって!」
 邪美は驚く。
「そいつはまだ無事なのか!」
 思わず尋ねるが、彼らはお互いに顔を見合わせる。

 かなり正気なのだが、レギュレイスが倒されたことは認識出来ていない。

 この説明に邪美は、嫌な予感がした。
 ホラーに取り憑かれた人間の反応に似ている気がするのだ。
「この部屋は、ここしか出入り口はないのかい?」 
 すると案の定、守護役たちは「ソウダ」と答える。
 彼女は覚悟を決めて、魔導筆を構えた。