INDEX
 
目次
 


君の隣にいるために 番外編 2 その11

 鷹麟鳥の守護役たちのいる空間は、木の中の迷路のようなものだった。
 邪美はその中を、カオルを探して駆けている。
 そして一羽の鳥が彼女の後を追う。猛禽類のような姿をしているが、生物とは少し言いにくい。体が金属的な光沢を放っているのだ。
「守護役、カオルは見つかったのかい!」
 すると後ろの鳥が飛びながら首を横に器用に振る。

──ミンナデ、捜シテイル。

 若いが機械的な声が返ってきた。
 邪美は時々立ち止まると人探し系の術を使うが、世界の成り立ちそのものが異なるのか、上手くいったりいかなかったりと術そのものが不安定だった。
 このまま見つからないでいると、守護役たちはカオルが一番やっかいなところにいるかもしれないと話す。
「そこはどこだい?」
 すると、この世界の奥深くだと言う。

──デモ、入レルワケガナイ。

 守護役たちは勝手にカオルを‘古い言葉を知っている学者’と思い込んでいたらしい。
 邪美が違うと何度も否定して、ようやっと事態の緊迫さに気がついたようだった。
 それでも、そこにはいないと言う守護役もいる。
「とにかくそこに案内をしておくれ」
 邪美にせかされて、守護役たちは奥へと向かった。


 同じ頃、鋼牙たちはゲートを潜って地下世界に入る。
 対レギュレイス兵器は設計図を見たレオの説明によると、鷹麟の矢が大地に突き刺さったとき自動的に起動するように作られていたらしい。
 では今回の誤作動が何故起こったのか。
「もしかすると鷹麟の矢の破片が大地に突き刺さったのかもしれません」
 もう何の意味もない道具に、その三体の兵器は反応した。
 過剰反応かもしれないが、レギュレイスを完全に滅ぼすために作られた物たちである。ないとは言えない。
 しばらくして彼らの前に奇妙な形の模様が現れた。
「第一の兵器の文様です!」
 彼らはその模様の中に入った。


 一方、烈花たちの方は空中に表示される新しい説明文を、どうやってレオに知らせようか、相談と実践を行っていた。
 情報というのは兵器がレギュレイスを一族もろとも滅ぼす為に、拡散系の武器を持っているということだった。
 早めに連絡をするべきだが、どちらもこの場から移動はできない。
「そうだ!」
 鈴は烈花にレオを捜すよう頼むと、自分は術で光の蝶を次々と出す。
「にぃのところへ行って!」
 蝶は次々とゲートを潜る。
 中には入り損ねて消えてゆく蝶があったが、何匹かは入り込んだようだった。
 魔界竜の稚魚カオルは、人間のカオルの着ている白い上着の中に隠れている。
 結界内が異質な空間ゆえ、烈花は魔界竜を召還できずにいるのだが、稚魚の方はもともとカオルのそばにいるのを選んだらしく、消えずに頑張っていた。 


「この文様の兵器は、外部に機能停止用の部品があります」
 三体の兵器は違う場所に機能停止システムが設置されており、その中でも最初の一体が比較的簡単な場所だった。
「鳴り物入りのわりに、ずいぶん簡単だな」
 零の言葉にレオは補足説明をした。
「残りの二体に同じところを攻撃すると、食われます」
 これは他の二体を効率よく動かす為の罠なのだという。
 思わず零は絶句する。
『さすがね』
 シルヴァが感心していた。

 第一の兵器が侵入者である魔戒騎士たちの方を見る。
 このとき翼の元へ光の蝶がヒラヒラと現れる。
「これは、鈴の!」
 何かあったのではと翼は後ろを振り返るが、もう戻ることはできない。
「レオ、烈花と連絡を取れるか試せ!」
 鋼牙の言葉にレオは「はい」とはっきり答える。
「頼む」
 翼もまた鋼牙や零の後を追った。


(ゲートを潜った蝶たちが、一匹でも‘にぃ’のところに届きますように……)
 鈴はとにかく祈る。
 烈花はその隣でレオを捜すことに集中した。
 そのとき、消えそうだった焚き火の火が一瞬、大きくなる。

「レオが気がついた!」
 烈花はダメもとで予備の界符を取り出すと、魔導文字を書く。

 その文字はレオの持っている界符にスラスラと現れた。
「エルバ、鋼牙さんたちに伝えて! 兵器たちの尾には広域拡散型の武器が装備されている。尾に火花が散ったときは攻撃したらダメだ」
 もともとレギュレイスとその一族を全滅させるために作られている。一度発動すれば、敵味方など関係ない。守護役の者たちも閑岱の人たちも皆殺しだろう。
 制作者の持つ深い闇。レオはそれを理解できることが苦しかった。

「間に合った……」  烈花は大きく深呼吸をする。
 空中の設計図は今のところ新しい情報を示してはいない。それはそれで、カオルの意識は無事なのかと心配になる。
 カオルの身体は静かに眠っていた。