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君の隣にいるために 番外編 2 その10

──止めるのはもともと不可能。ただ、眠らせることは低確率だが出来る。ただ、それが成功すると起こさないための生け贄が必要になると言っている。

 その言葉に鈴が青ざめる。
「どうしよう……」
 自分が余計なことをしたばかりに、大変なことになった。彼女はそう考えて、震えた。
「鈴、お前の所為じゃない」
 翼が妹の頭を撫でる。幼いころから鈴はこうして兄に落ち着かせて貰っていた。
「そうです、鈴さんの所為じゃありません」
「鈴ちゃんを狙うとは……。その兵器を壊せないのか!」
 レオも零も事態の成り行きに怒りを露わにする。
「邪美、その兵器の場所に俺たちを送れないか」
 今度の鋼牙の問いに、邪美は素早く返事した。


──グラウ竜もどきを3体倒すことになる。

「かまわん。グラウ竜そのものではないのだろ」

──姿が似ているだけらしい。会話は成立しないから説得は最初から不可能。少し待ってくれ。

「何があった」

──頭の固いオヤジが、普通の人間には無理だとほざいている!

 邪美の字には怒りが現れていた。
 魔戒騎士のトップクラス4人を普通の人間と言っているということは、そもそも魔戒騎士そのものを知らない立場なのかもしれない。
「邪美、鈴のために堪えてくれ」
 翼は思わず叫ぶ。
 ここで交渉を失敗すると、何もかもが最悪の方向に向かってしまうのだ。

 ところが次に現れた邪美の字は、少し落ち着いていた。

──急に頭の固かったオヤジが軟化した! 設計図とやらを送る!!

 空中に青い光でいろいろな線と古い言語で表された図柄のようなものが現れる。
 ただ、レオ以外の魔戒騎士三名には、何がどう書いてあるのかがわからない。
 レオ自身も初めて見る言語なので、自分の理解が正しいのかは心許ない。
 しかし数秒後、その設計図に別の金色の光で文字が書き込まれはじめた。
 鋼牙はその字の癖をよく知っている。
「カオルの字だ!」
 意外な助っ人に彼らは驚く。
 こうなると烈花に守られて眠っているカオルの意識は、邪美と同じところかそれに近い場所にいることになる。


 イラスト込みで素早く書き込まれていく空中の設計図。徐々にレオは対レギュレイス兵器の内部が分かってきた。

──カオルの意識がこっちにいるって? 探してみる。

 そう前置きをして、邪美はその兵器について倒す条件を彼らに伝える。
 やり方を失敗すると、逆に兵器の方が人間を襲うか、閑岱を巻き込んで大爆発する。ゆえに機能を停止させてから、破壊という手順。
 3体の兵器は連動してはいなので、順番は問わない。
 しかし、場合によっては合体する可能性がある。
 とどめを刺した後でも気を抜くな。

──今、爺さんたちがゲートを開いてくれる。頼んだよ。

 この字が空中に現れた直後、『木』が震えた。

 とにかく鋼牙は、烈花と鈴にカオルのことを頼む。
「カオルの意識は邪美が探してくれている。鈴は今回、カオルの世話係だ。カオルが俺と家に戻るまで、絶対にそばにいてくれ」
 これは言外に、早まったことはするなという意味もある。カオルを守ろうとするあまり、鈴が無茶をやっては意味がないのだから。
 鈴は泣きそうになりながら頷く。
「烈花、二人のことを頼む」
 鋼牙の後ろで翼とレオが頭を下げ、零がお願いのポーズを取る。
「大丈夫だ。安心して行ってこい」
 優秀な魔戒法師の言葉を胸に、彼らは躊躇うことなく用意されたゲートに飛び込んだのだった。 


 そのころカオル(の意識)は、鳥のような影と灰色の空間で話をしていた。姿は閑岱センスの霊獣の着ぐるみの中の人状態なのだが、鳥の影は特に気にする様子は無い。
 彼女は手に羽ペンのようなものを持っている。
「これでも昔、企業のパンフレットに使う挿し絵の仕事をしたことがあります! あのときの仕事、もう担当の人がダメだしばかりで辛かったなぁ」
 鳥の影は首を傾げる。彼女たちのいる場所の床には、レオたちが見ていた対レギュレイス兵器の設計図が光で描かれている。
「でも、これは何? ロボット??」
 相手は綺麗な声で囀る。
「綺麗に壊さないとならない? やっぱり物を作るって、大変だよね」
 再び鳥の影は首を傾げる。
「えっ、私の……つ、番い〜。えぇぇっと、嫁に貰ってくれる人がいたので結婚しています!」
 着ぐるみの中のカオルは、わたわたと焦っていますというジェスチャーをする。
「強いかって? すごく強い人です。黄金騎士・牙狼っていう称号を持っているの。知っている?」
 カオルは畳みかけるように説明をする。
「鋼牙、私の旦那さまの名前なんだけど、私ね、何度もその人に命を救ってもらったの。その中でもグラウ竜って知っているかな、その竜が守っているナントカノ実の汁を飲まないと死んでしまうっていう事態があってね、大変な思いをして彼が持ってきてくれたの」
 鳥は囀る。
「そうそう、ヴァランカスの実! そんな名前だった」
 鳥の影は片方の翼を広げる。
「追加情報があるのね。何?」
 カオルは立ち上がると鳥の影が示した場所に説明文を書き始めた。