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君の隣にいるために 番外編 2 その6

「まぁ、今日は鈴の夜間訓練という重要事項があるけど、魔戒騎士が4人もいるんだ。月見酒を楽しもう。カオルに閑岱の綺麗な夜を見せてやりたいんだよ」
 邪美の宣言に、他の魔戒騎士たちは「そっちが本命では?」と思いつつ、口には出さない。
 何しろ、彼らは邪美に勝てる気がしなかった。


「ところで姐さん、俺まで呼んだのは何かあったの?」
 『木』を傍で見るため席を立っている鋼牙とカオル以外は、焚き火を囲みながら酒などを飲んで寛いでいた。
 未成年の鈴は食後のお菓子を摘んでいる。
「まぁ、今夜は面白いことが起こりそうなんだよ」
「面白いこと?」
「あのね、誰かお客さんが来るみたい」
 鈴の言葉に男性陣が一斉に邪美を見る。
「まさか、この場でレオと……」
 翼が今度はレオの方を厳しいまなざしで見る。
「ちょ、ちょっと待ってください! 僕はそんな話、聞いていません。邪美さん、早く正式に断ってください」
 危険な話の流れにレオは慌てる。
『おや、レオ、勿体無いことをするねぇ』
 自分の魔導輪の茶化しに彼は悲鳴を上げた。
「エルバは黙って!」
 すると鈴が悲しそうな顔で邪美を見る。
「邪美はにぃのこと嫌い? もしレオさんにお嫁さんが必要なら……」
「待て待て待て! 鈴ちゃん、翼がレオを殺しかねない発言はしないように」
 素早く零がその場を仕切る。
「姐さん、問題がこじれる前にズバッと思っていることを言っちゃってください」
 その場にいた全員が邪美の言葉を待つ。
 彼女はしばらく考えた後、ようやっと口を開いた。
「さすがに閃光騎士狼怒の系譜たる布道家当主が見合い相手全員から振られたじゃ、みっともないだろうし沽券に関わるだろ」
 意外とまともな理由に、レオはビックリする。
 みっともないとか、沽券とかは全然考えていなかったからだ。
「自分がしでかした見合い話だからね。レオの顔が立つようにしないと悪いじゃないか」
「……」
「それと、レオの意志がどこにあるのか分からなかったからね。このままじゃ、閑岱や元老院が持ってきた政略的な見合い相手と婚姻を結ぶんじゃないかって、エルバも心配している」
 そこまで酷いことになるかは推測でしかないが、シグマの一件がある以上、布道家の立場は微妙に弱いところがあるのは事実だった。
 しかし、見合いについて邪美が残っている限り、露骨な動きはないはずである。
「邪美さん……、エルバ」
 レオは自分の魔導輪を見る。
『ギャノンとの戦いやこの間のことで、あんたに利用価値があることは他のロクでなしどもが気付いている。でも、あんたは優しい子だから、いつか己を犠牲にする対応をやってしまいそうでねぇ。邪美に一肌脱いでもらったんだよ』
 この場合、最も簡単な対応は、レオがハッキリと意志を示せばいいのだ。
「ありがとうございます。布道家のことは、僕がしっかり守ります」
 そう言って、彼は「今回の見合いはなかったことにしてください」と、続けて断りの挨拶を告げる。
「それじゃ、しかたないね。布道家の奥さまに成り損ねたよ」
 邪美はほっとしたように酒を口にした。
 鈴もまた笑顔になる。
「それなら……、山刀家の奥さまになるのは……どうだ?」
 翼の言葉は、その場にいた者たちにとって不意打ちだった。
 そして当の本人もまた、言った後で顔を赤くしていた。


「ねぇ、鋼牙。なんか皆、楽しそうだね」
「楽しいのだろう」
 二人っきりで(ザルバもいるが)木を眺めていた鋼牙とカオルは、もうそろそろ焚き火の傍に戻ることにした。
 このとき辺りを冷たい風が吹き抜ける。
 鋼牙はカオルの着ている外套のフードを彼女の頭にかぶせた。
「……なんだこれは?」
 現れたのは奇妙な形の動物の顔。
「可愛いでしょ。閑岱の方で伝わっている霊獣のデザインなんだって」
 本物を見たことがある身としては、あまり似ていないような気がする。
 だが、わざわざそれを言う必要はない。
「……」
『カオルが食われているみたいだな』
 ザルバの意見に鋼牙は心の中で同意する。
「ちょっと大きいからね」
 彼女は鋼牙の右腕に自分の腕を絡めた。
 再び風が吹く。

 木の葉の光がまるで粒子のように、周囲に舞った。