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君の隣にいるために 番外編 2 その5

 賭け話をしてから約30分後、零とレオ、そして翼がほぼ同時にカオルたちのところへ現れた。
「森に惑わされました」
 開口一番に、レオは零と邪美に謝る。
 その言葉に鈴が邪美を見る。
「何で森がレオさんを惑わせるの?」
 カオルもどうして? と、烈花に尋ねる。
 しかし、烈花も首を傾げる。
 それを説明したのは、翼だった。
「レオたちが通った道は今は誰も使っていない。たぶん、そこに張り巡らされた結界が強力すぎたのだろう」
 閑岱の人間に見つからずに『木』に向かうルートの落とし穴に、彼らははまったのだ。
 とはいえ、結界そのものはちゃんと作用している。侵入者が使うようなルートを通るのが悪いといわれれば、その通りだった。
「俺は気にしていないよ」
 いつもよりも森の中にいるのが長いかなぁ〜という印象だったと零は笑う。
 それよりも案内人であるレオの方が精神的に疲労しているのではとレオの方を見た。
「僕は大丈夫です」
 これでも鍛えていますと彼が言ったとき、木の葉の光を強くなる。
 そして夜に光る木の下には一人の人間が立っていた。
「鋼牙!」
 カオルは立ち上がると手を振った。


『なんだ? 随分大所帯だな』
 ザルバは相棒に話しかける。
「……」
 カオルの周囲にいる錚々たるメンバーに、鋼牙も少なからず驚く。邪美はいったい何を考えているのだろうか?
 そして稚魚のカオルは、素早く人間のカオルのところへ移動してしまう。
 まるで鋼牙をここへ案内できたことを、カオルに報告しているかのようだった。
 このとき彼の耳にカオルの声が届く。
「鋼牙、動かないで!」
 その言葉に彼は周囲を見回す。
「なにっ」
「スケッチさせて〜。でも、手元がちょっと暗〜い〜」
 一人で騒いでいる妻の言葉に彼は頭が痛くなるような感覚を覚えたが、そのままズカズカと近づく。
 カオルの行動に翼以外のメンバーは笑いをこらえていた。


「お前は何をしているんだ」
 鋼牙はカオルの隣に立つと、彼女の柔らかな頬を軽く摘んだ。魔界竜の稚魚はカオルの着ている外套のフードに出たり入ったりを繰り返して遊んでいる。
「だって〜」
 そして彼はカオルの頬から手を離すと、邪美を睨みつける。
「邪美、あの連絡文はなんだ」
『面白かったじゃないか』
 鋼牙はザルバを睨む。魔導輪が関わると話が進まない。
 邪美はというと妖艶な笑みを見せていた。
「カオルの伝言が気に気に入らなかったのかい? 可愛い文面だと思ったけどねぇ」
「そういうことではない」
 するとなぜか他の魔戒騎士たちの魔導輪が食いつく。
『あら、どんな文面かしら?』
『たぶん‘寂しいから早く来てね〜’とかいうのじゃないかい?』
 シルヴァとエルバの会話に、零とレオは背中に冷たいものが流れる。この黄金騎士に冗談とか下世話なネタは通用しない。実際に鋼牙の体から殺気に近い何かが漂っている。
『そんな直線的なものでは情緒がないのう』
 ゴルバの意見に、翼は「話に関わるな!」と叱った。


 木は緩やかに点滅のような現象を見せる。
「鋼牙、すごいよね!」
「……あぁ」
『この木だけが光っているみたいだな』
 皆との食事の後、冴島夫妻とザルバは皆から離れ、夜に輝く木の下で美しくも幻想的な光景を見上げていた。
 鋼牙も隣に大切な女性がいるので、あまり不機嫌さを継続させないよう努力する。
 正直言えば邪美にいいように扱われているのは何か腹立たしいが、自分ひとりではカオルを楽しませるということが不可能に近いことは分かっている。
「鋼牙と一緒にこんな風景が見れるなんて、夢みたい」
 カオルの嬉しそうな様子に、彼はかなり癒された。