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君の隣にいるために 番外編 2 その4

「ところでレオ、見合いはどうなったんだ?」
 閑岱へ向かう途中の森で、零はレオにいきなり尋ねる。森は夕暮れを迎えようとしていた。
 レオは「いやなことを聞きますね」という顔で零を見る。
『それがねぇ、ほぼ全員から断られたんだよ』
 エルバがため息をつきながら答えた。
『何やったの?』
 シルヴァの疑問にレオは「何もしていません!」と身の潔白を強調する。
 この返事に零とシルヴァはため息をついた。

──こりゃダメだ。『駄目だわ……』

「なんだ、謎解きに夢中になってバッドエンドかよ」
「いいえ、そんなことないですよ」
「?」
 レオの説明によると、今回の見合い相手のうち一人は魔窟の攻略に協力してくれた魔戒騎士と婚約したという。
そして他二人もまた他の魔戒法師にお付き合いしたい人がいるということで、丁寧に断わりの連絡が入った。
 そして烈花は「修行を優先したい」と言い、鈴は兄の翼が「鈴には早い!」と猛反対したのと、鈴自身も彼を兄のように見ている節があり、レオも妹みたいに感じているので不成立となったのである。
「一番よい結末だと思います」
 彼はそう結論をつける。
 零はそれを聞いて、「それじゃ、お前の幸せは?」と言いそうになったが、余計なお世話だと思い直した。
 レオは魔戒騎士であり優秀な魔戒法師なのだ。本気で狂おしいほどの想いを持てば、それこそ鋼牙のように引き離されても相手を探し巡り会う努力をするだろう。
 大切な人を失う怖さを知っているのだから。
 このとき彼は一人足りないことに気がつく。
「レオ、姐さんは?」
 するとレオがいきなり慌てふためく。
「邪美さんは! その……保留だそうです」
「保留? 何で?? それこそ翼が一番に反対する相手だろう?」
 閃光騎士の称号を持つ青年は、本気で困惑している。
「邪美さん、何か考えがあるみたいなんですが、僕には全然わかりません」
「あー、そうだな。俺にも姐さんの考えていることは分からないな〜」
 銀牙騎士は思いっきり頷いた。 


──これは鈴の為の訓練なんだよ。

 カオルを『木』に案内するための建前は結構無茶なものだった。
 非力な存在を一晩守るという訓練に冴島夫人が協力してくれるというのだ。
 そういう状況下に陥らせないために魔戒法師も魔戒騎士も厳しい修行を行いホラーと戦っているのだが、やはり不測の事態もまた覚悟しなくてはならない。
 翼は邪美たちの向かった方角を見る。
 烈花も一緒だし結界内での訓練なのだから、心配する理由はどこにもない。
 でも、彼は不安だった。

 翼は心のモヤモヤを払拭すべく、魔戒槍での型の訓練をしようと外へ出たとき、弟子の日向が里の老人から何かを託されているところにぶつかる。
「どうした」
 すると日向は老人から『果実酒』を邪美に渡して欲しいと頼まれているところだと答えた。
 夜の訓練に参加させて冴島夫人に風邪をひかせては、黄金騎士牙狼に申し訳が立たないと言うのだ。
「ならば、俺が持っていこう」
 邪美の行動に抜かりはないと思うが、蚊帳の外に置かれて状況が過ぎ去るのを待つというのは性に合わない。
(当たって砕けろだ!)
 翼を自分を鼓舞する。
 そんな師匠の並々ならぬ気迫に、日向はどこかで最終決戦が行われるのかと思った。


 夜の闇が迫る風景の中で、少し離れたところにそびえる『木』は徐々に明るく光り始める。
 カオルはその様子をじっと見ていた。
「綺麗だろ、カオル」
 邪美の言葉にカオルは頷く。彼女は今、防寒用に閑岱が用意した白い外套を着ていた。
 フードもついているが、それはかぶってはいない。
「鋼牙にも見せたいなぁ」
「あいつなら、もうすぐ来るだろうさ」
 しかし、それに対してカオルは少しだけ寂しそうに笑った。
「鋼牙は忙しい人だから、来るのは夜中じゃないかな〜」
 その言葉に邪美たちは顔を見合わせる。
「夜中だって? 二人はどう思う」
「鋼牙は今、閑岱の森に向かっていると思う。日が暮れているから」
「鈴の意見に賛成だ」
   すると邪美は楽しそうに笑う。
「あいつは今、閑岱の森にいるよ。あいつはそういう奴だ」
 ということで、女性陣はミニゲームということで、鋼牙がいつ来るかを当てることになった。
 ちなみに邪美は『約1時間以内に現れる』
 烈花と鈴は『約1時間以上3時間以内』
 カオルは『真夜中近くから夜明け前まで』
 外れた人は当てた人の頼みを聞くというもの。
 ただし、その頼みレベルも簡単なものにするという条件付きである。


 そして当の黄金騎士はというと……。
「……」
『おい、休憩しなくてもいいのか?』  速攻でホラーを一体葬り去った足で、鋼牙は閑岱の里に急行していた。
「心配するな、ザルバ」
 夕暮れの閑岱の森。彼の目には、いつもよりも闇が深いように感じられた。
 そんな森を移動中に、彼の魔法衣から魔界竜の稚魚カオルが飛び出る。
 稚魚のカオルは鋼牙の周りをグルグル回ると、今度はこっちへ来いとばかりに何度も彼の方を振り返る。
『おい、鋼牙。カオルが案内をしてくれるらしいぞ』
「らしいな」
 どこに案内をするのかはわからないが、閑岱に言って老人たちの世間話に少しでもつきあわされるのは避けたい。鋼牙は迷わず、可愛らしい光を放つ赤くて小さな魔界竜の後を追った。