「閑岱? 邪美姐さんの呼び出しなら、行かないとならないな」
ちょうど公園のベンチでクレープを食べ終えた零が立ち上がる。
「たしか明日だろ。鋼牙とカオルちゃんが閑岱に行くのは」
「……それが、邪美さんが今夜は月見酒に絶好だと言って、カオルさんをさっそく連れて来たんです」
おかげで閑岱は黄金騎士・牙狼の奥方さまが来たということで、ひとしきり大騒ぎになったのである。
「姐さんも無茶をやるなぁ。鋼牙の怒りが目に浮かぶぞ……」
「でも、我雷法師さまも一枚噛んでいるらしくて、すぐさま歓待状態になりました」
どうも鋼牙のカオルに対するガードの堅さは閑岱でも噂になっていて、下手をするとカオルと話が出来ないまま帰られてしまうのではと、彼らは思ったらしい。
「策士だな」
魔戒法師の長である我雷法師を味方にしたのでは、鋼牙も邪美に対して睨みこそすれ抗議はしにくいだろう。
「でも、番犬所にも知らせずということは、俺がサプライズゲストとか?」
「そうなんでしょうか? 詳しいことは邪美さん、話してくれなかったので……」
先程のことを思い出すと顔が赤くなりそうになる。
それを誤魔化して、彼は楽しいことを企画しているという雰囲気はあったと言った。
「零さん、来て欲しいのは夜なので、ホラー狩りがあったら協力しますよ」
すると零は大丈夫だと笑う。
「今日はお休み」
「えっ?」
零の魔導輪シルヴァはやれやれ……といった雰囲気で説明をする。
『昨日、誰かに見られているとか言って、それを調べるために今日は他の魔戒騎士に交代してもらったのよ』
「誰ですか?」
「いや、そこまでは分かってない。女の子の熱い視線なら気にはならないし嬉しいけど、あれは何か観察というか、様子見みたいな気がした」
放っておくかどうかをまずは調べたい。そう神官に言ったら、あっさりと許可が下りたのである。
どうも第二、第三のシグマを神官たちも警戒しているらしい。
そう言われると、レオも零を見ていたという存在が気になる。
一緒に調べてみたくなり、つい尋ねた。
「姿は見ましたか?」
「見た。小柄な爺さん」
このときレオは、自分に魔窟の情報を提供してくれた老人を思い出す。
しかし彼は銀牙騎士に対して恩があったような態度だった。それが何であるのかは分からないが。
それでも疑問は解決した方が良い。
「もしかして……」
レオは自分が探している老人のおおまかな特徴を零に話す。
零は「そんな感じの老人だ!」と驚きの声を上げる。
『あら、狼怒の知り合い?』
シルヴァの問いにエルバが『レオの探し人だよ』と答えた。
「もしその人なら、零さんを一度見たかったのかもしれません」
「俺を?」
「どうも銀牙騎士に恩義を感じているようでしたから」
道寺という名に反応した人だと説明すると、零は「義父さんの知り合いかな?」と嬉しそうな顔をした。
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