話はカオルが閑岱へ行く前日に戻る。
この日、番犬所からの指令で銀牙騎士・涼邑零は、とある町に巣食うホラーを狩ることになった。
ところが、そいつが非常に逃げ足が早い。
それでもその地域を守っている魔戒法師たちの協力で、とある廃屋にホラーを閉じこめることに成功する。
ホラーは零の陽動に気を取られて、魔戒法師たちの張り巡らした罠を失念していたのである。
ここまでくれば、あとは零が乗り込んで倒すのみ。
逃げ場を失ったホラーは反撃に出たが、零の一撃で片が付いた。
「協力、感謝する」
零が笑顔を見せながら魔戒法師たちに礼を言う。
「いいえ、こちらこそ助かりました」
なにしろどんなに閉じこめようとしても、術が発動する僅かな隙に逃げられてしまうのだ。とにかく危険に対する忌避能力は本能ともいうべきレベルだった。
こうなると反射的に剣を振るう魔戒騎士の方が適任と言える。
ただし、魔戒騎士一人での追跡では気配を察知した瞬間に逃げられてしまうタイプなので、魔戒法師たちの協力は必須だった。
そしてお互いの任務が終わり、零が帰ろう町から出ようとしたとき、彼は視線を感じた。
反射的にそちらの方に視線を向けると、ビルの陰に小さな人影。今の時間帯からして、この場にそぐわない存在。しかも相手は隠れてしまう。
反射的に彼は謎の人物のいた場所に駆け寄る。
『どうしたの?』
魔導輪のシルヴァが何事かと尋ねた。
「今、ここに人かいた」
『誰もいないじゃない』
確かに誰もいない。
単に通行人が歩いていたというのなら、零も気にはしなかった。
しかし、彼は視線を感じたのだ。
その人影は、確かに自分を見ていた。
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