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君の隣にいるために 番外編 2 その2

 話はカオルが閑岱へ行く前日に戻る。
 この日、番犬所からの指令で銀牙騎士・涼邑零は、とある町に巣食うホラーを狩ることになった。
 ところが、そいつが非常に逃げ足が早い。
 それでもその地域を守っている魔戒法師たちの協力で、とある廃屋にホラーを閉じこめることに成功する。
 ホラーは零の陽動に気を取られて、魔戒法師たちの張り巡らした罠を失念していたのである。
 ここまでくれば、あとは零が乗り込んで倒すのみ。
 逃げ場を失ったホラーは反撃に出たが、零の一撃で片が付いた。
「協力、感謝する」
 零が笑顔を見せながら魔戒法師たちに礼を言う。
「いいえ、こちらこそ助かりました」
 なにしろどんなに閉じこめようとしても、術が発動する僅かな隙に逃げられてしまうのだ。とにかく危険に対する忌避能力は本能ともいうべきレベルだった。
 こうなると反射的に剣を振るう魔戒騎士の方が適任と言える。
 ただし、魔戒騎士一人での追跡では気配を察知した瞬間に逃げられてしまうタイプなので、魔戒法師たちの協力は必須だった。
 そしてお互いの任務が終わり、零が帰ろう町から出ようとしたとき、彼は視線を感じた。
 反射的にそちらの方に視線を向けると、ビルの陰に小さな人影。今の時間帯からして、この場にそぐわない存在。しかも相手は隠れてしまう。
 反射的に彼は謎の人物のいた場所に駆け寄る。
『どうしたの?』
 魔導輪のシルヴァが何事かと尋ねた。
「今、ここに人かいた」
『誰もいないじゃない』
 確かに誰もいない。
 単に通行人が歩いていたというのなら、零も気にはしなかった。
 しかし、彼は視線を感じたのだ。
 その人影は、確かに自分を見ていた。 


 零がすばしっこいホラーと戦っていたのと同じ日、レオは港町にある雑貨などを扱う店'あかどう'にて、店長のシグトと話をしていた。
「やはり連絡は取れないですか?」
「通りすがりにも会ったことがないので、もうこの町にいないのかもしれませんね」
 シグトは腕を組んで首を捻りながら答える。
 レオが探しているのは、自分に重要な情報を与えてくれた老人なのだが、そもそもシグト自身が老人を探すことにあまり協力的ではない。
 かなり粘って聞き出したところによると、あの老人は大昔に閑岱から追放されたのだという。
「師匠も何の理由かは教えてはくれませんでした」
 そんな過去のある人間だとすると、レオもそれ以上は探しにくい。自分は罪人を裁く追跡者ではないのだ。
「縁があったら、また会えますよ」
 そんな日が来るだろうか?
 彼の脳裏に'一期一会'という単語がよぎった。

 そして翌日、レオは邪美からの依頼で零を迎えにいく。
 どうしても番犬所には内緒で閑岱に来てほしい理由があるらしく、零が仕事で行けそうにないときはその仕事を肩代わりしてでも連れてこいとの厳命なのだ。
 ただ、そこまでする理由を邪美は言わない。
 無理矢理聞き出すというのは不可能な相手なので、レオは何も聞かずに邪美の依頼を遂行することにした。
(あの人は何を考えているんだろう?)
 黄金騎士・牙狼の幼馴染みは、無敵というにふさわしい女傑である。
「お駄賃がほしいのかい?」
 そう言って顔を近づけられたとき、彼は動けなかった。
 彼女は生命力に溢れすぎている。
(カオルさんといい邪美さんといい、なんて綺麗な光を持っているんだ……)

──闇に生きる魔戒の狼たちは、光に焦がれ恋い慕う。

 レオが口を開こうとしたとき、「何をやっているんだ」と、翼の声がした。
 どうみても誤解してくれと言わんばかりのシチュエーションである。
「……それじゃ、僕、行ってきます!」
 レオはその場から逃げ出す。 

(僕はいったい何を……)
 彼は混乱していた。