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君の隣にいるために 番外編 2 その1

──冴島鋼牙に告ぐ。
 お前の大事なカオルは預かった。
 今夜、閑岱に来い。
 ちなみに直ぐに来た場合は、お前の恥ずかしい過去をあることないことカオルにバラす!

追伸
 鋼牙へ
 邪美さんが迎えに来てくれたので、先に閑岱に行きます。
 お仕事に行くときは気をつけてね。 
                 カオル

 空中に浮かぶ魔導文字で書かれた脅迫文と、その脇に浮かび上がる愛妻の字。
 拐かしの犯人は邪美だということがよくわかる内容だった。
 もうすぐ新築された冴島邸に引っ越しをするのだが、カオルはアトリエの方にいたので、邪美はそちらに直接行ったらしい。
 本当なら明日、自分がカオルを連れて閑岱へ行くはずだった。
『おい、カオルが連れ去られたのか? これは大変だ』
 ザルバは面白いことが起こったと笑う。
「……」
『そう怒るなって〜。相手が邪美ならカオルは無事だし、むしろ楽しくやっているかもしれないだろ。それよりも元老院から呼び出しが来ているぞ』
 その言葉に鋼牙は椅子から立ち上がる。
 明らかに彼は不機嫌になっていた。 


 その頃、カオルは初めて来た閑岱に思わずキョロキョロしていた。
 結界に守られた魔戒法師たちの里。独特の雰囲気に彼女は別世界に来たような気がした。実際に別世界なのかもしれないが。
 そして隣にいてカオルを案内しているのは、成長した山刀鈴。白夜騎士・山刀翼の妹である。

 鈴は昔、冴島邸にてカオルの絵に傷をつけるという大失敗をしてしまった。
 この一件は後にイタリアから帰国したカオルが絵を修復した。だが、鈴は閑岱から出られなかったのでカオルにも謝りたかったのだがチャンスがなかったのだ。
 それについて迎えに来た彼女の師匠である邪美曰く、
「すぐに謝りに行かせるのが本当かもしれないけど、鈴の術が不安定なうちは閑岱から出すには抵抗があった。とっさの時に、守らなくてはならない存在に怪我をさせかねないからね」
と、言うことだった。
「でも、それじゃ鈴ちゃんが……」
 カオルは可哀想だと言おうとしたが、邪美に止められる。
「術で誰かに怪我をさせてからじゃ、後悔したって遅いからね。カオルには申し訳ないけど……」
 邪美に師匠の顔で言われると、カオルもまた納得して頷く。
 人の陰我を糧とするホラー。それらと戦う者たち。
 そこには一般社会に住む自分の理屈が通用しない規律があるのだろう。
「そうすると今回は鈴ちゃんに会えないのですか?」
 カオルがおずおずと尋ねると、邪美がにこりと笑う。
「今回は鈴が閑岱の案内兼世話係だ。何でもあの子に聞いとくれ」
 その言葉に、カオルは喜ぶ。
 ある意味、自分の作ったものが一人の少女を成長させたということなのだから。
 そして閑岱で、真っ先に出迎えてくれたのが鈴だった。