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五ツ色の絵物語 番外編2 その2

 森の中は結構静かだ。
 だが、やはり何となく違和感を感じる。

 ところで、出発前にレオを見る魔戒騎士と魔戒法師たちの目が、なんだか同情的に見えた。
 大丈夫、鋼牙はいきなりレオを抹殺したりはしないはずだ。
『閃光騎士狼怒もイヤな役を振られたわね。でも、エルバったら狼怒が可愛いのね』
 シルヴァの言葉に俺は首を傾げる。
「何で?」
『何でって、大きな戦いの後でみんなが心を一つにしているときに黄金騎士牙狼の嫁が御月カオルだと言っておけば、あとで元老院や番犬所のろくでなしどもが何かを謀っても、みんなが助けてくれるわ。そしてエルバが褒めたのよ。しばらくは御月カオルと狼怒の周りは静かでしょ』
「そんなものか?」
 まぁ上手くいくかどうかは分からないが、多少なりとも防波堤にはなるかもな。
『狼怒自身は自分で嫁を見つけて、自分で今回の一件の事情を己の言葉で相手に説明すればいいのよ。それくらいの努力もできないんじゃ、相手に失礼よ』
 それをレオにやれと? まぁ、あれも男だ。なんとかなるだろう。
「それなら俺の周りはうるさくなるかな〜」
『絶狼は無理。うるさくして欲しかったら、そのチャランポランなところをどうにかしなさい』
 うわ〜〜っ、キッツイなぁ。
「まぁ、俺にはシルヴァがいるからなぁ」
『さっさと仕事をしなさい。来るわよ』
 シルヴァの言葉通り、珀岩の谷には変異種が隠れていた。今まで見てきた素体ホラーに似ているが、やっぱりどこか違うように見える。

 よぉ〜し、全滅させてやるぜ。
 俺は二振りの剣を構えた。 


 変異種たちは流石に変異種だけのことがあった。素体ホラーみたいな姿だが、性質は全然違うのかもしれない。特に素早く移動するときに空間が揺らめいているように見える。
「なんだ、こいつらは……」
 それと敵対している姿と剣から伝わる手応えにズレを感じる。見えているものと実際の形が違うという印象。謎は残るが、今は相手を倒してカオルちゃんを守らなくては!

 そんなこんなで、もう鋼牙と二人でどれくらい変異種を倒しただろうか。それよりも変異種というのはこんなにも数がいたのかとイヤな気持ちになったが、とうとう真打ちが登場してくれた。

 真っ黒くてまるで不定形なヤマタノオロチみたいな姿。頭は蛇というよりは竜に近いかもしれない。何か、何処かでこんな形のものを見たことがあるような……。
 とにかく流石に銀牙騎士にならないと無理だ。迫力とパワーが今までのものとは違う。
 そしてそいつの体には細いワイヤーがくっついていた。
「鋼牙、カオルちゃんをとにかく引き離せ!」
「分かった」
 本陣をまずは守らないと。そしてこいつの正体を見極める!

 ところがこいつは俺を無視して鋼牙の方を追いかけやがった。もしかしてカオルちゃん狙いか!
 簡単に後ろを取れたので、その背中に剣を突き刺す。

「なにっ!」

 その瞬間、脳裏に雪崩込んでくるイメージがあった。こいつの本体は巨大な体の方じゃない。体に巻き付いているワイヤーの方だ!
 細かく呪文みたいなやつが組み込まれていやがる。それに囚われて、アレが無茶苦茶に暴れているんだ。

 このあと俺は弾き飛ばされた。
 しかし、この化け物の体にこれ以上剣は突き立てられない。

  「鋼牙、ワイヤーだけをを破壊しろ。そうすれはヤツらは正気に戻る」
 シルヴァを通じて連絡をする。鋼牙からはわかったという返事が来た。
 そして数秒後、少し離れたところから閃光が迸った。