ギャノンを倒した後、真魔界から珀岩の谷に戻るのが、これまた一苦労だった。
とにかく巨大な力を消滅させたのだ。空間が全然安定しない。
無理矢理、魔戒道を作っても途中で空間が切断されたら、それこそ異世界に飛ばされかねない。
そういう世界があればと言う前提の話ではあるのだが……。
そんなときに頑張ってくれたのがレオだった。
魔戒法師としての術に長けているこいつが、一番条件のいい場所で条件の良い魔戒道を作ってくれたのだ。こいつがいなかったら、たぶん半数以上は元の世界に戻れなかったかもしれないな。
ところがなんとか地上に戻ってみると、今度は別の問題が発生していた。
「カオルが……?」
話を聞いた鋼牙が絶句するのは無理もない。俺だって心底驚いた。
何しろカオルちゃんに霊獣の気が移っていると言うのだ。
どうやら霊獣に直接会ったことか、彼女が霊獣の気を受けた絵筆を大事に持ち続けて滅多に使わなかったことが原因らしい。
それでも本来なら特殊な処理を施さない限り、霊獣に会ってから体も筆も徐々に効果は薄れるはずだが、相手はあのカオルちゃんだ。
ホラーの返り血を浴びたり、ヴァランカスの実の汁を飲んだり、メシアのゲートにされたりと体はいくつかの『魔』や『術』の影響を受けている。
しかし、彼女自身は純粋で善良だ。霊獣に出会ったときそれらが好転したと言われても信じるよ。
これを他の人間でも再現が可能かを試してみるのは無理な話だが。
そして案の定、鋼牙は苦虫を噛みつぶしたかのような顔をしている。こいつの場合は慣れていないと、いつもと変わらないように見えるが俺にはわかる。
どうせカオルちゃんを側に置くべきではなかったとか、自分には過ぎた女性なんだとか考えているんだろうなぁ。本当にこいつは朴念仁な黄金騎士だ。
「もしも突然変異種のホラーがカオルの血を一滴でも飲んで霊獣の力に対して耐性を持ったら、これからの戦いは今以上に過酷になるよ」
邪美が鋭いことを言う。だからそこ魔戒法師たちは迷っている。カオルちゃんを閑岱に連れていくべきか、元老院にて鋼牙たち魔戒騎士に保護させるかを。
邪美たち魔戒法師の懸念は分かる。霊獣の聖なる力は俺たちの生命線だ。それが効かなくなれば、戦いそのものが成立しなくなる恐れがある。
しかし、この判断は俺たちの事情であり、カオルちゃんの自由を著しく奪う。
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