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五ツ色の絵物語 番外編2 その3

 殺風景だった森に、柔らかな光が降り注ぐ。辿り着いてみると、数体の真っ白い霊獣が鋼牙とカオルちゃんを取り囲んでいる。
 おいおい、周辺の空間がおかしなことになっているぞ。森の姿が歪んでいる。
 これは力ある存在が狭い空間にたくさんいることによるものだな。
「零さん、これはどうしたことですか!」
「見ての通りだよ。今回の親玉は霊獣をたちを縛り付けていたワイヤーだ」
 誰が作ったのか知らないけど、とんでもないことをしでかしてくれたよ。
「ワイヤー……ですか」
「霊獣を狩っているという奴らが開発したのか、それともそういうものに取り付く物の怪がいたのか、ホラーの仕業なのか全然わからないけどな」
 何しろ鋼牙が綺麗さっぱりと粉砕したみたいだから、物的な手がかりが何一つない。
 俺がため息をついたとき、隣でゴンザがボロ泣きしていた。
「大河さま、りんさま。鋼牙さまがカオルさまと霊獣たちの前で神聖婚を行っております。この倉橋ゴンザ、これでお二人にいつでも胸を張ってお会いできます」
 おいっ、それは冴島家の家事に多大な被害を及ぼすから、やめたほうがいい。あいつらの子供の食生活を守れるのはゴンザ、お前だけだ。
 それにしても神聖婚って……。
 そういわれれば、鋼牙は白いコート姿だしカオルちゃんも白っぽい服装だ。そうに見えないこともない。
 なにやら花嫁は霊獣たち相手に何かしゃべっているみたいだが、どうにも空間の様子が緊張をはらんでいる。
 何を喋っているのかよく聞こえないが、近づかない方が良さそうだ。
「証人は僕たちだけみたいですね」
「色気のない立会人だが、仕方ないだろ」
 一生に一度、見れるかどうかわからないレベルの婚礼に女性の招待客はナシか……。
 そう思ったとき、俺の隣に静香がいた。その表情は、花嫁を見ることが出来て嬉しそうだった。
 そうか、静香も立ち会ってくれるんだな。
 あいつら、ようやっとまとまったよ。
 本当にこっちをヒヤヒヤさせるバカップルで苦労したんだ。

 不意に霊獣たちが動き出した。一体一体が鋼牙とカオルちゃんにすり寄ると、そのままこちらに向かってくる。
 えぇぇぇっ!

 そして霊獣たちは俺たちの横をすり抜けて、空のかなたへと去っていったのだった。 


 ようやっと事情を聞けたのは、あの場所からかなり離れてからだった。
 ここまでくれば大丈夫だろう。
「本当にすごかったよ。鋼牙がホラーみたいなのを切ったと思ったら、ぶわぁぁって霊獣たちが現れたの!」
 カオルちゃんはとても興奮していた。感極まっているゴンザが相づちを打つ。この二人に適当に喋らせた方が良いな。
 鋼牙は「脆いワイヤーを切ったら霊獣がでてきた。それだけだ」と言って話を終わらせやがった。
「本当に鋼牙さまもカオルさまも素晴らしい花婿花嫁でございました」
 ゴンザの言葉に鋼牙は不本意そうだが、特に訂正はしない。
「そうえばカオルさん、霊獣と何か話をしていたみたいですが会話できたのですか?」
 よし、レオ、いい質問だ。
 するとカオルちゃんは目をキラキラさせて答えてくれた。
「霊獣さんたちったらヒドイのよ。なんとなく鋼牙を警戒しているみたいなんだもの。だから大丈夫、鋼牙は黄金騎士牙狼なの。守りし者なのっていっぱい説明したのよ」
 俺は思わず吹き出した。
 カオルちゃん、霊獣たちに鋼牙を紹介したのか。
 それにしても霊獣たちの思考回路が分からない。カオルちゃんの中に仲間と思える何かがあったのか?
「でね、それでもまだ何だか警戒しているみたいだから……」
 このとき鋼牙が声を出した。
「カオル、それ以上は説明するな」
 しかし、カオルちゃんは鋼牙の言葉を無視してくれた。よし、いいぞ。
「鋼牙は私がとても信頼していて大好きな人なんですって言ったの。そうしたら鋼牙も霊獣たちに『カオルを裏切るような真似はしない』って言ってくれたんだ」

 はい、婚姻成立、婚姻成立。この二人の仲を裂こうとする者は霊獣たちから天罰をくらうな、これは。霊獣たちにそういう凶暴性があるとは思えないので、オリグスの爪で八つ裂きの刑か?
 とにかくカオルちゃんは嬉しそうだし、ゴンザがまた泣いている。
 鋼牙はというと、これ以上カオルちゃんに喋らせるのが怖いのか、彼女の手を取るとさっさと先に行きやがった。
 まぁいいか。惚気話を聞くのは結構しんどい。

「ところで零さん、霊獣を捕らえていたワイヤーですが、どんなものか見ましたか?」
 あぁ、ほっとする会話内容だ。
「ワイヤーに見えたが、何か文字みたいなものがあった。ただのワイヤーに力を与えたのか、材質から特殊なものを使っているのかは打ち砕いた鋼牙に聞かないとわからないだろうな」
 でも本人は脆いと言っていたし、あまり参考になりそうな情報はなさそうだが……。


 しばらく歩いてようやっと冴島邸に到着。俺とレオは中に入らず玄関先で辞することにした。新婚の近くにいつまでもいたら馬に蹴られるどころか、鋼牙なら轟天を呼び出しかねない。
 俺は鋼牙の実力は信じているが、カオルちゃんがらみでのあいつの理性は信頼していない。 

   〜了〜