『黒い木』は海辺にあった。
大広間からグルグルと回り道をしながら移動したので、カオルは今自分が何処にいるのかわからないくらいである。
──穴ガ増エテイル。
昨日の段階では、もう少し少なかったらしい。
(島の異変が加速しているの?)
一気に攻略しないとならないのかもしれない。カオルは絵筆を鞄から出した。
『黒い木』の中は文字通り、真っ暗だった。その中で雷牙の体が仄かに光りを放つ。
(きれいな光……)
しかし目立つことこの上ない。
カオルがそんな不吉なことを考えた途端、雷牙が白い翼を出して飛んだ。
上空で何か激しくぶつかり合う。そのうち『木』の壁が壊れて、光が射し込むようになった。
カオルは雷牙に力を与えてくれるのであろう黒い色を探したが、全体が暗いのでよく分からない。
だが、ぼんやりした明るさの中、壁の一角で何かが動いているのが見えた。
「カンゾウさん!」
カオルは駆け寄ったが、実際にはカンゾウは少し離れているところで気を失っている。
では、今、自分の目の前で動いているのは何なのだろうか?
このとき少し離れたところの壁が壊されて、カオルたちのいるところが、かなり明るくなった。
「!」
よくよくみると、それは黒い馬モドキが動くレリーフだった。周囲の壁よりも黒い体。もしかしてと絵筆を近づけると、黒い光は壁から絵筆に引き寄せられるが、馬モドキから離れない。そして馬モドキは、何かにあらがうように動かせる左半分で暴れる。
次の瞬間、雷牙が落ちてきた。白い翼を傷つけられたらしい。
「雷牙!」
カオルは雷牙に駆け寄ろうとするが、雷牙がそれを止めた。
──ダイジョウブ。
しかし、どうみても白い翼はボロボロで飛べそうにない。
謎の生き物が上から自分たちを見ている。
カオルは意を決して、雷牙の白い光を絵筆に戻し、今度はそれで黒い馬もどきの上に乗馬可能な馬の絵を描いた。
黒地に白の模様をつけた馬は大きく体を動かすと、壁から離れる。全てが分かっているかのような動きで、雷牙に向かって駆け出した。
雷牙もまた反射的に馬に乗る。
(すごい……)
その人馬一体のスピードたるや、あっという間に先ほどまで苦戦していた相手に近づき、次の瞬間、それは雷牙の剣に切り伏せられていた。
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