カオルははっと目を覚ます。額に乗っていたカオル(仮)がピョンと跳ねた。
彼女は覚えのない天井を見て、自分が何処にいるのか一瞬混乱してしまう。
『大丈夫?』
鈴の転がるような可愛らしい声。自分を見ていたのは、とても可愛らしい白ウサギ。
彼女はスズウサギのリムルと名乗った。
「あの子は……、雷牙は?」
『周辺、見ると言っていました』
さすがは黄金騎士と言っていいのか、なんなのか。カオルは軽く自己嫌悪に陥った。
(私が倒れちゃダメじゃない!)
起き上がろうとするのをリムルが止める。
『ムリをさせてゴメンナサイ』
自分たちのためにカオルが倒れたのだと思って、リムルはうなだれてしまう。その仕草が、これまた可愛いとカオルは思った。
彼女は大人しく横になる。ここでちゃんと回復しないと、雷牙の迷惑になる。
でも、雷牙の姿が見えないと心配で休んだ気がしない。ではどうしたらいいのか。
リムルと話をする時間が得られたのだ。ここは情報収集に努めて、雷牙の負担を少なくする。そんな思考を重ねて、ようやっとカオルはリムルに話しかけた。
「リムルさん、ガープ博士ってどんな人?」
するとリムルが嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔だけで、カオルはガープ博士がどんな人物なのか分かったような気がした。
しばらくして三人組と雷牙がリムルの家へやって来る。
──大丈夫?
雷牙の声はとても不安げだった。その声が鋼牙に似ているような気がして、カオルはさらに反省した。
自分が倒れては、雷牙は戦えない。
「心配をかけてゴメンね」
──ユックリ休ンデ。他ノ2本ノ木ノ場所ハ分カッタカラ。
「2本?」
するとリムルが哀しそうに言った。残りの一本はとても分かりやすいところにある。
それは島のてっぺんにあるガープ博士の家の場所なのだと。
しかも雷牙はこっそりと『木』に近づいたらしい。それを聞いてカオルは驚く。無謀としか言いようがない。
「だめじゃない!」
すると雷牙がしゅんとした。
──ゴメンナサイ……。
なんだか自分の子供を叱っているような気持ちになってくる。
「あなたに何かったら……」
涙が零れそうになる。雷牙が『木』の中で倒れている光景を想像してしまったからだ。
──泣カナイデ。
それからカオルが落ち着くまで、雷牙はずっとオロオロとしていた。
それでもカオルは雷牙の行動を無意味にするのはいけないとようやく考え、『木』の様子はどうだったのかと尋ねると、『黒の木』は入り口が固く閉ざされており、『赤の木』は入り口がわからなかったとのこと。
そしてガープ博士の家にあるという『木』については、そこに続く階段に風ライオンがいて、近づいてはダメだと追い返されてしまったという。
「そうなんだ……」
風ライオンの思慮の深さにほっとしつつ、カオルは鋼牙のことを考えた。
(鋼牙ならこの子をちゃんと導けるのに……)
危ないこと、なすべきこと、そして決してしてはならないこと。でも、自分では感情が強く出てしまう。
このとき、カオルはある重大なことに考えが至った。何故、今になって気づいたのか。もっと早くに考えるべきこと。
(この子にもきっと帰りを待っている家族がいるのだから、ちゃんと返してあげないと!)
とはいえ本人に記憶がないのだから、それ以上は考えても雷牙を追いつめるだけなので、カオルは上体を起こすと雷牙を抱き寄せる。
「一緒に頑張ろうね」
すると雷牙もまたカオルにしがみついた
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