──アリガトウ。
小さな黄金騎士はカオルに頭を下げる。
「無事でよかった〜」
カオルはほっと胸をなで下ろすが、はたと思い出す。
「キャロルストーンさんの下半身!」
まさかビルの消滅に巻き込まれたのでは! と真っ青になっていると、カオルの背後に素晴らしいプロポーションに戻ったキャロルストーンが立っていた。
隣には喜色満面(?)のジムストーンもいる。
『戻りマシタ。アリガトウ』
二人は嬉しさを表現するかのように、クルクルと踊る。そのそばではキスケたちも喜んでいた。
「お礼はこの子に言って」
カオルは小さな黄金騎士の腕をとると、前に出す。
「この子が助けてくれたのよ」
するとジムストーンが黄金騎士に名を尋ねた。
しかし、黄金騎士は首を横に振る。
──名ハ無イ。
するとジムストーンたちは驚く。
『名がないと、みんなに忘れ去られてしまう。
そうしたらワスレサラレタモノになってしまう』
この会話にカオルは驚いてしまう。この世界は名前に対する重みが、かなりあるのかもしれない。
では彼の名をどうしたらいいのか。黄金騎士というのを名にするのは奇妙に思える。
このときカオルの脳裏に一つの言葉が浮かんだ。
雷のイメージ。そうだ、この子の名は……。
「彼の名は"雷牙"よ」
この瞬間、黄金騎士・雷牙の持っていた黄色い石版が光り出す。そして彼の中にその光が入り込んだ。
──アリガトウ。良イ名ヲ、アリガトウ。光ガ僕ヲ受ケ入レテクレタ。
カオルは、黄金色のマスクの中で彼が喜んでいるような気がした。ということは、先ほどの石版は彼にとって非常に重要なものらしい。
そんな彼の周りを、嬉しそうに魔界魚の稚魚も軽やかに泳ぐ。
カオルはふと稚魚に尋ねる。
「もしかしてあなたの名は、アカネ?」
ザルバが名付けようとしたという名前を言ってみる。すると稚魚は何のこと?という雰囲気で、やや困惑したのか力のない動きをした。
(もしかして鋼牙、またカオルって名付けてくれたのかな?)
稚魚はカオルの前でふよふよと動く。
「ごめん、ごめん」
カオルは稚魚に謝る。同じ名前だからこそ、稚魚のカオル(仮)はここまでついてきてくれたのかもしれない。
さて、カオルとしては黄金騎士・雷牙にはいろいろと尋ねたいことがあったが、残念なことに彼は自分のことも敵対していたものの情報もほとんど持ってはいないという。
ただ、キャロルストーンの下半身が『木』を壊そうとする青黒いものの行動に巻き込まれそうになっていたので、助けようとしただけだと言った。
(命がけで誰かを守ろうとするなんて、この子はスゴいわ)
もしかして声が若いだけで、実際はもう少し年輩なのだろうか?
顔がわからないのが残念ではあるが、それは仕方がない。
「でも、もう危ないことはしないでね。あとは私がなんとかするわ」
そう言って相手を安心させようとするが、何とかできるレベルの相手ではなさそうな気がかなりする。向こうは凶暴かつ狡猾な感じがするのだ。
そんなカオルの無謀な言葉に、雷牙は首を横に振った。
──アイツトハ僕ガ戦ウ。
「でも、雷牙……」
──何カヲ思イ出サセソウナンダ。アイツト戦ッテイルト。
カオルは俯く。鋼牙ならば、敵を前にして撤退などはしないだろう。
そういうイメージのものを雷牙に与えたのは自分なのだ。
カオルはしゃがんで両膝を地面につくと、両手で雷牙の両手を握る。
「それなら約束して、決して無茶なことをしないって」
すると雷牙はしばらくカオルの顔を見た後、小さく頷いた。
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