とっさにカオルは「落ちる!」と思った。
しかし、実際には下りエレベーターに乗っているかのような状態だった。黒い床が下に向かっているのだ。
そのため彼女は動けなくなり脱出する機会を失った。
(何、何っ!)
見上げると空はだんだんと遠く小さくなっていく。もうジャンプして脱出というのは無理。
そしてウサギも、穴に飛び込むと耳をプロペラのように動かしてカオルのそばに着地する。
(もしかして、不思議の国のアリス?)
それにしてはウサギは時計を持ってはいない。
再び空を見上げると、小さな光が穴に飛び込んできた。
カオルはその光が何なのかすぐに分かった。
「あっ!」
鋼牙の魔界竜がカオルの後を追ってきたのである。
魔界竜の稚魚はカオルの周りをふよふよと泳ぐ。
「付いてきてくれたの? ありがとう!」
魔界に属するでろうものでも、見知った存在と一緒というのは心強い。
カオルはウサギの方を見る。
「どこまで行くの?」
しかしウサギはキョトンとした顔をするばかり。
(もしかして、私ったらこの子の帰り道に立っていたのかな?)
よく見るとあどけない表情で、とても可愛い。怖いものとは思えなかった。
「さすがは冴島家の管理する森だわ……、変なところに繋がっている道があるのね」と、これまた鋼牙やゴンザが聞いたら「違う!!」「違いますぞ!」と反論したくなることを彼女は呟いた。
しばらくして下の方から光が差し込む。
あまりの眩しさに目をつぶってしまう。
そして次に目を開けたとき、カオルは見知らぬ土地に立っていた。
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