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(許さない……。絶対に許さない!) 彼女はそう叫んでいた。 それは悲劇の舞台。 一人の少女の死によって、関係者の運命は過酷さを増す。 そしてその流れに誰も逃れらない。 一人、また一人とその身体が大地へと還っていく舞台を、ジュリアンは観ていた。 そして舞台はいきなり光を増し、彼は眩しさのあまり目を瞑った。 「ジュリアン様……」 鱗衣を外したソレントは、うなされているジュリアンの身体を揺すった。 「あっ!」 彼は目を開けた瞬間、ソレントの顔をじっと見た。何か混乱が起きているのか、彼はしばらく何も言わない。 「ジュリアン様、何か悪い夢でも見たのですか?」 「……ソレントか」 呼びかけられて、ソレントは嬉しそうに頷いた。 「ご無事で良かった……」 すると彼は困ったような顔をする。 「ソレント。それは私のセリフだよ。 もしかして私はソレントと同じ犯人に誘拐されたのかな?」 彼は上体を起こす。 「大丈夫ですか?」 「大丈夫だよ。それより犯人は?」 「いいえ、ジュリアン様と私は犯人たちのところから逃げる事が出来ました。 けど、ここが何処なのか判らないのです」 ソレントは前もって童虎と打ち合わせをして、自分たちは迷い人であるという振りをする。 ジュリアンに聖域の事を説明せずに済めば、それに越した事はないからである。 友人であるソレントの言葉なので、ジュリアンは素直に彼の話を聞く。 「ところで、女の子は一緒ではなかったか?」 「いいえ、ジュリアン様にしか会っていませんが……」 それがエリスの依代である絵梨衣の事なのはソレントも知らされていたが、エリスにより固く口止めされている。 『海皇の依代に動かれると、問題が混乱し兼ねない。 たとえここが聖域だと知られても、セイレーンは知らない振りをし続けろ』 エリスの厳命を、彼は逆らわない事にした。 「では、私は夢を見ていたのか?」 謎の青年が自分目の前に来た瞬間から今に至るまで、彼は何一つはっきりした事が思い出せない。 (もしかして、あれは夢で、絵梨衣さんは無事なのだろうか?) しかし、かの青年の存在がジュリアンに不安を与えていた。 そして彼は、その事を友人に相談するべきかどうか迷った。 |
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