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『ヤツには勝てないのか……』 サガは体中に痛みを感じて、意識を取り戻した。 周囲を見渡すと、薄暗い石造りの部屋に寝かされていた。 「気がついたみたいだな」 窓辺で外を見ていた女性の声に覚えがあった。 「エリス……」 「しばらく身体を休めろ。さっき、私と闘って体中が痛いはずだ」 サガは何の事か分からず、じっとエリスの事を見た。 「覚えていないようだな。さっき、私はもう一人のお前と闘ったんだ」 思い出そうにも、双児宮からの記憶がほどんど無い。 (あっ……) 一瞬だけ、光の中でアイオロスが自分の腕を掴んでいる場面が蘇った。 (私はいったい何を……) 「まったくポリュデウケースも、真面目な奴だ。いったい誰に似たんだ? 母親か?」 サガはエリスが自分を通して、誰かを見ている事に気付いた。 「ポリュデウケース?」 「お前が邪悪と思っている人格の名前だ」 その言葉に、彼は驚愕する。 「名前があったのか……」 考えてみれば、自分は一番長く関わっている割にその人格についてどこまで知っていたのか疑問が残る。 今まで知っているつもりで、何一つ見ていなかった事が悔やまれた。 「神々の最大秘密事項だ。今回の騒ぎが無ければ、永遠に発覚しなかっただろう」 「神……、どういうことだ!」 サガは立ち上がるとエリスに近寄ろうとしたが、彼女に止められた。 「その足元の魔方陣から出るな!」 彼の足元には、かのデスクィーン島にあった謎の部屋と似たような模様が書かれていた。 暗い部屋で淡く弱い光を放っている。 「結界の一種だ。そこから出ればポリュデウケースが表に出て、またお前を気絶させなくてはならなくなる。 あまり手間をかけさせるな」 サガは円の中心に戻ると、そこに腰を下ろした。 「……話を聞こう」 「素直だな。そこら辺はポリュデウケースと同じだ」 自分の中の邪悪な部分を褒められて、サガは困惑した。 「エリスは、そのポリュデウケースというヤツを知っているのか?」 すると彼女はちょっと驚いたような表情をした後、面白そうに笑って答えた。 「知っているも何も、私の甥だ」 これには、さすがに彼も絶句してしまった。 |
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