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海よりも深い青 その1

神殿の奥にある霊廟で、鱗衣のシードラゴンは呆然としていた。
目の前の柩には大好きだった女神様が眠っている。
鱗衣であるこの身ゆえ、人の様に涙を流す事など出来はしないが、その意識は全ての思考を放棄していた。
柩の傍では、同じようにマーメイドの鱗衣が呆然としている。
『……パラスさまぁ……』
大好きだった女神様の名を呼ぶ。 繰り返し、繰り返し……。

★★★
鱗衣がこの海を守る為に作られた時、海皇は自分が気に入った闘士に彼らを与えるつもりだった。
だが、女神パラスは鱗衣に選ばせた方が良いと言ってくれた。
相性の悪い闘士に与えたところで上手く扱えるわけが無いと、彼女は鱗衣たちの味方をしてくれたのである。
だから鱗衣たちは女神パラスの想いを無駄にしない様に、自分達の主を慎重に決める事にした。
愚かな人間を主にしては、女神の立場を悪くさせるからだ。
だがマーメイドの鱗衣は、よりにもよって女神パラスを主に決めてしまう。

『女神様以外は、絶対にイヤ!』

この発言に女神は困惑してしまう。
確かに自分は武神ではあるが、鱗衣を常にまとう事は出来ない。
いつも武装しては、色々と問題が発生するからである。
仕方ないので説得は長期戦になると考え、急いでマーメイドの為に闘士を見つける様な事はしなかった。
だからマーメイドはいつも女神と一緒だった。
★★★
『パラスさま、海将軍が七人揃ったんですよ』
しかし、霊廟内はしんと静まり返っていた。
★★★
穏やかな日々。 自分達の気に入る闘士は、なかなか見つからなかったが、それでも鱗衣たちは平和である事を喜んでいた。
そんなある日、女神パラスはシードラゴンを地上に連れていった。
留守番をさせられたマーメイドには悪いが、シードラゴンは女神様と一緒のお出かけにワクワクしていた。
初めての地上は、とにかく光あふれる世界で海の底の世界とは全然違う。
シードラゴンは周囲を見回した。

「実はね。アテナに貴方を見せるって約束しちゃったの。
お祖父様には内緒よ」
女神様はそう言って笑った。
優しい笑顔。大好きな表情。
そして彼女の視線の先に居る人間を見た時、シードラゴンは運命的な邂逅をする。
女神アテナに付き添っていた二人の少年。
同じ顔をしていたが、シードラゴンはその内の一人に強く心惹かれた。
★★★