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彼は地獄門の前に立つ。別名、絶望の門。 「ここに入るもの。一切の希望を捨てよ」 その言葉が示す通り、この奥は冥界である。 聖戦のとき、あのペガサスの聖闘士は希望を捨てずにここを通ったのだろう。あの亡者もまた、一縷の望みを持って冥界へ足を踏み入れた。 希望は絶望の中から生まれ出るもの。それを捨てることなど最初から出来はしない。 アイアコスは自嘲気味に笑う。 彼がどうしても捨てることの出来ない名前は『水鏡』といった。 いつごろから持ち始めたのか。最初から持っていたのかは定かではない。もしかすると、これから名乗ることになるのかもしれない。 (いずれ来るであろう運命の時までは、たぶん何もわからないだろう) だが、そうなると今度はアイアコスの名はどうなってしまうのだろうか。 やはり持っているのか。それとも棄ててしまうのか。 棄てたあと、己は何になってるのか。 (全てが分かるまでは、例え絶望に苦しもうとも冥界を守護する者として在り続けるしかない) 彼は門をくぐる。その足どりに迷いは無かった。 |