萌え話W・41 守護

 海辺では、レヴィアタンの戦士たちを黄金聖闘士たちが次々と撃破していた。
 一撃で倒さないと、戦闘に関する情報をレヴィアタンへ持ち帰られてしまう。
 その為、彼らは自らの技を封じて、事態の処理に当たっていた。

 だが、レヴィアタンがベヒモス変化を起こしたのである。
 こうなると向こうに自分たちの能力が知られてしまうのを覚悟の上で、攻撃を仕掛けないとならない。
 余り長く敵のベヒモス状態を見続ければ、自分たちもまた狂う可能性があるのだから。

 彼らは楽観をしたりはしなかった。

「ジュネさん、貴女は悪くはない!」
 過去の傷に押しつぶされそうになっている恋人を、瞬は力一杯抱きしめる。
「僕にも背負わせて欲しい……」
 瞬はジュネの頬に手を添えた。

 星矢とクリシュナは二人の様子にギョッとして視線を逸らす。
 しかし、瞬がジュネを落ち着かせたところで、危機的状況は何一つ解消されてはいない。
 時間が経てば、誰かが犠牲になるだろう。

(アイギスに頼るなと言われているけど……)

 それでも仲間たちを守りたい。
 あのレヴィアタンを倒さないと、聖域もこの海も世界もメチャメチャになる。
(いったいどうしたら!)
 星矢は自分に何が出来るのかと自問自答した。
 このとき、持っていたアイギスが急に重くなったような気がした。
「えっ?」
 盾から細かい水のようなものが発散され、星矢とアイギスを包み込む。
 同時に星矢の聖衣が光りだした。

「アイギスが力を発動したようです」
 処女宮では沙織がユリティースたちにそう告げる。
「やはりメデューサさまの力は衰えてはいなかった……」
 聖域の守護女神はほっとした表情を見せた。  



萌え話W・42 破邪
 ベヒモス化したレヴィアタンは、海辺から発せられる光を見て身体が動かなくなった。
 動こうとすればするほど、身体が固くなってゆくのだ。

 海にあった霧が晴れてゆく。
「アイギスが発動した。全員下がれ!」
 サガの号令に、海辺にいた黄金聖闘士たちは一斉に後退する。
 アイギスの光が、海辺に上陸しようとしていたレヴィアタンの傀儡たちを次々と石に変えてゆく。

「これはいったい……」
 瞬もまたアイギスの圧倒的な力に驚く。
 何よりも星矢の聖衣が変化したのだ。
「一体何が……」
 星矢自身も驚いていた。
 しかし、クリシュナはそんな彼に自分の槍を渡す。
「太古の女神であるメデューサ様は破邪の力を持っている。それは絶対的なもの。ゆえにその力を使うには二つの闘衣を同じ場所にいさせないとならない」
 それがペガサスの聖衣とクリュサオールの鱗衣だった。
 メデューサの力がペガサスの聖衣に移るか、クリュサオールの鱗衣に移るかは、その場にならないと分からないのだが。

「今回はお前が選ばれた。ならば黄金の槍を使え」
 そう言ってクリシュナがアイギスを持つ。
 星矢は彼の説明に頷いたあと、「いけぇぇぇぇぇ」と叫びながら、黄金の槍をネビュラチェーンに沿って投げたのだった。   


萌え話W・43 アイギス
 神話で有名なペルセウスのメデューサ退治。
 それは半分だけしか伝わっていない物語。

 最近、字を覚えたばかりで素直に本を読んでいるエスメラルダは、いきなり伝承と違うことを言われて戸惑う。
「メデューサさまというのは、どのような方なのですか?」
 沙織に尋ねにくい部分があったので、視線はユリティースの方になる。
 するとユリティースは沙織と視線で会話したあと、口を開いた。
「メデューサさまは、強力な魔の力で他の魔を制する方なのです」
「?」
「たとえどんなに強い魔物がいたとしても、メデューサさまよりは強くありません。そんな方が女神アテナと聖闘士たちに、力を貸してくださっているのです」
 問題はアイギスが発動したとなると、レヴィアタンもただでは済まないが、海辺の者たちも危険だということ。
 強力すぎるゆえ、細かい制御が出来ないのだ。

 ゆえにレヴィアタン戦の参加人数が多いと巻き込まれる聖闘士が増えるだけなので、今回は紫龍や氷河には師匠たちから待機命令を出させたのである。
 一輝は連絡が取れるほど時間があったわけではないので、放置となった。
「でも、なんでメデューサさまは力を貸してくださるのですか? ペルセウス座の方がいらっしゃるのに?」
 自分の首を切った英雄ペルセウス、その男を模した聖衣をまとっている聖闘士がいるのだ。
 エスメラルダは不思議に思う。
 すると沙織がポツリと言った。
「ステンノーさまとエウリュアレーさまはメデューサさまの力が眠るアイギスの守護精霊です」
 三姉妹ではなく、もともとアイギスと二人の精霊という組み合わせだという。

「そしてメデューサさまは我が母神メティスの姉妹です」
 それゆえ女神アテナにとってペガサスとクリュサオールは、母方の一族ということになる。
 母系神族にとって、母方の血筋は身内扱い、兄弟姉妹も同然なところがあった。
 ただし、女神アテナ自身は大神ゼウスの影響下にあるので、父系神族の系統に属するのだが……。 

萌え話W・44 空にいるもの
 レヴィアタンは黄金色をした槍が飛んでくるのを見たとき、早くベヒモス化を解かなければと思った。
 だが、身体は石の様になっており、動くこともままならない。

――最強ノ魔獣ノ身体デアレバ!

 そう心で叫んだ瞬間、星矢の投げた黄金の槍が命中する。

 ベヒモス化したレヴィアタンの石となった身体にヒビが入る。そして割れた石が次々と海の中へ落ちてゆく。
 星矢たちはこれで終わったのかと思ったが、このときベヒモスの背中から四枚の翼が現れた。
 そして、上空には黒い大きな翼を持った鳥の影が現れる。

――コノママデハ、終ワラセヌ。

 このとき、聖闘士たちの前で魔獣は分裂をした。
 一体はベヒモスの変形タイプであるバハムート。もう一体は空にあった影と結合してジズになる。
 この二体は別々に動き出した。
 バハムートはネビュラチェーンも黄金の槍の存在も無視して動き回る。
 まるで己が傷つくことを恐れていないかのようだった。
 そしてジズはネビュラチェーンの捕縛から抜け出しているので、自由だった。


「来るよ!」
 処女宮の前にいた貴鬼が空を指さして叫ぶ。
「わかった」
 射手座の黄金聖闘士アイオロスが、弓に矢をつがえた。  

萌え話W・45 全てを切り裂く
 アイオロスの放った矢がジズの眉間に当る。それと同時にジズは分散した。
 だが、そもそも影が処女宮の付近をウロウロしていたのだ。
 あれは情報収集だろうとアイオロスは見当をつけていた。

☆☆☆

 同じころ、海でも異変があった。
 バハムートがジュネの方へ突っ込もうとしたとき、とっさに星矢がネビュラチェーンを掴んだのである。瞬をサポートしようとして。
 ところがこの瞬間、ネビュラチェーンは退魔の女神メデューサの影響下に入ったのだろう。
 チェーンの一つ一つが光をまとい鋭い刃を持ったのだ。
 この変貌に星矢の方が驚く。

 しかし瞬はそれをチャンスと捕らえる。
「女神メデューサ、感謝します」
 彼は鎖を動かす。ネビュラチェーンはバハムートの身体に食い込んだ。絶叫する魔獣。首のところに赤い何かが光っている。
 このときカノンが動いた。

☆☆☆

 処女宮付近では、ジズが次々と黄金聖闘士達によって仕留められ消滅していった。
 襲う最終目的が女神アテナと若い娘たちなら、その行動パターンは簡単に推測が付く。
 どれほど分裂を繰り返そうと、それら全てが光の武器によって消滅させられるのは時間の問題であり、それはすぐにやってきた。
「こちらに『核』がないということは、海の方の魔獣が持っているのでしょう」
 スキュラの海将軍・イオが沙織にジズの消滅を宣言した。

☆☆☆
「あれだ!」
 偶然にも魔獣の身体からエネルギー体が見える場所に出たのは僥倖だった。
 サガから天秤座の武器である槍を借りると、素早くネビュラチェーンをを足場にしてバハムートに近づき、その 魔力の源であろう『赤宝』を壊したのである。
 彼の推測通り、バハムートの身体が石化し始め、崩れてゆく。魔力による抵抗が出来ず、女神メデューサの影響をモロに受けたのだ。
 そのまま彼は赤宝の中の『核』を手にする。
 これを封じておけばレヴィアタンが再びこの世界に現れるには、途方もない時間が必要になる。
 そして魔力の減退したレヴィアタンならば、制御は簡単だった。

 海に落ちる石に変化した魔獣の身体。
 それが完全に崩壊し、ネビュラチェーンが空(くう)を掴んでいるような状態になったとき、瞬はチェーンを元に戻したのだった。  

目次 / 萌え話W・46〜50に続く