萌え話W・36 共闘

 レヴィアタンの巨大な姿を見たとき、瞬はネビュラチェーンを何処に巻き付けるべきか考えてしまった。
 部分的な補足程度では、姿を変えられたらそのまま逃げられてしまうかもしれない。
 しかし、何としても捕まえねばジュネを守ることは出来ない。

 瞬がネビュラチェーンを強く握ったとき、脳裏に声が響いた。

『捕まえ方を迷うのならば、単純に雁字搦(がんじがら)めにすれば良い』
 声の主である乙女座の黄金聖闘士シャカが、アッサリと答えを出す。
 彼は今、沙羅双樹の園にいた。
「雁字搦めって……、あれだけの大きさを?」
『相手は逃せば那由他の距離まで離れかねない魔獣。迷うな』
 畳みかけるよな説得に瞬も覚悟を決めた。
 敵が逃げようとするのなら、ネビュラチェーンは時空を超えてでも追跡を行う。
 目の前にいる巨大な魔獣が捕らえられないわけがない。
 このとき乙女座の黄金聖衣が仄かに輝く。

「ネビュラチェーン!」

 彼の放った鎖は、レヴィアタンに向かって一直線に突き進んだ。


萌え話W・37 警戒

 抵抗する人間の放った細い鎖。
 それがよもや自分を拘束するとは、さすがのレヴィアタンも意外な抵抗に驚いてしまった。

『小癪ナ!』

 形を変えて鎖を引き離そうとするが、その鎖はまるで生き物のように長さを変えてレヴィアタンを離さない。
 では、元凶たる人間を襲おうとすると、今度は鎖が棒のようになって前へ進むことを阻むのである。

『許サヌ!!』

 レヴィアタンは周囲の霧をますます濃くしてゆく。
 そして今まで身体の中に貯め込んでいた傀儡であるヒトを浜辺へと送り込む。
 こうなったら、全員を喰らう。

 海の怪物は怒り狂った。

☆☆☆

 十二宮の方でも、上空を黒い影が現れたり消えたりを繰り返している。
「あれがジズでしょうか」
 オルフェの言葉に貴鬼は首を傾げた。この怪物は遠くからやって来たという現れ方はしなかった。
 ということは瞬間移動ができるのだろうか?
 雲の中を飛んでいるかのように見える空の怪物。
  そこに実体があるのか、貴鬼には分からなくなっていた。


萌え話W・38 黄泉比良坂
 異形の者たちが十二宮の階段を上がる。
 白羊宮と金牛宮を難なく通り抜けることが出来たので、彼らは何の警戒もせずに双児宮へと入る。

 そして双児宮の次にある巨蟹宮では一人の闘士が立っていた。
「ここまで多いと、うんざりします」
 そう言いながらグリフォンの冥闘士ミーノスが、糸を使って異形の者たちを次々と黄泉比良坂へ叩き落としていた。

 双児宮と巨蟹宮に仕掛けられた複合的な罠。
 それは不死身の身体を得ているであろう者たちを、強引に冥界へ送り込むものだった。
(本当に手段を選びませんね、双子座は……)
 サガは双児宮を通り抜けようとするものは、強制的に巨蟹宮のとある場所に移動するようにしたのである。
 そして双児宮を避けようとする者もまた巨蟹宮へ行くように。
 運良くというか巨蟹宮は死霊たちが集いやすいので、ミーノスが冥界への入り口を無理矢理作るという荒技も使えたのは幸いだった。

 冥界の入り口には、レヴィアタンの力を得ている者たちを裁くべく配下の冥闘士たちが集まっている。
 これらは協力体勢にある今だけ可能な方法。
 取り逃がせば、レヴィアタンに取り込まれていた魂は再びレヴィアタンの元へ戻ってしまうかもしれないから。
 それは絶対に避けなくてはならない。

 暗い巨蟹宮の中を細い糸が踊るかのように動く。
 今のところ穴から這い出してきた魂はない。

萌え話W・39 知恵の実
 レヴィアタンは己の送り込んだ人形たちの戻りが悪いことに苛立ちを感じ始めていた。
 実力の異なる人形たちを送り込むことによって、愚かしい人間たちは色々な技を駆使して闘う。
 その情報がある程度たまったら、人形たちを自分のところへ戻し情報を得る。
 そうして次に送り込む人形は、より強い性能を持って人間たちを滅ぼすのだ。

 ところが今回は、人形たちがほとんど戻ってこない。
 もう何度、強さのレベルを上げただろうか。
 これでは自分の手駒だけがなくなってしまう。

──オノレ……。

 この近辺に属する海の者たちから、アンドロメダ姫は魔獣退治の専門家と言われた。
 その者を生きたまま喰らえば、難なく彼女が倒した魔獣達の情報も得られる。
 しかし、それがいきなり海将軍とやらに捕らえられ牢獄に封じられてしまった。

──早クあんどろめだ姫ヲ食ワネバナラヌ。

 そして海将軍をも食う。

 レヴィアタンは咆哮するとその身体を光らせた。
 一気に片をつける。

──逃スモノカ。

 ちょうど空にはジズが来ている。 

萌え話W・40 変化
 レヴィアタンが天に向かって咆哮する。
 身体が透けたり現れたりを繰り返していくうちに、空に溶け込み始めた。
 その姿を見て、星矢や瞬と共にジュネを守っていたクリシュナは「ベヒモス変化……」と呟く。

「ベヒモス変化?」
 何のことかと星矢が振り向いたとき、ジュネが声を出して暴れる。
「ジュネさん!」
 瞬は鎖に手を添えながら、彼女に駆け寄った。
「落ち着いて、大丈夫だから!」
 しかし、ジュネは首を横に振る。
「私が……生きているなんて……」
「何を言っているんだ!」
 姉弟子の言葉に瞬はギョッとする。
 するとクリシュナが言葉をかける。
「ベヒモスは完璧なる獣、神の傑作といわれる存在だ」
「それがどうしたのですか」
「彼女は今、己の中に潜む辛い記憶を呼び覚まされている。その罪を償うために、ベヒモスに身を捧げようとする思考に陥っているのだ」

 完璧なる生き物の血肉になる。
 それが赦しを得る方法だと、思い込んでいるという。
「問題は、きっと他の場所でも同じようなことが起きているということだ」

 クリシュナの推測通り、ベヒモス変化を見ていた雑兵たちや一部の聖闘士達がフラフラとした足どりで海へ向かおうとする。
 それを、まだ正気を保てている他の者たちが止めているという状態だった。

「俺たちをエサにして、力を回復しようとしているって事か」
 星矢はベヒモス化しているレヴィアタンを見た。
 もう空の光に溶け込んでおり、形らしきものは見えない。      

目次 / 萌え話W・41〜45に続く