萌え話W・31 夜明け前

 東の空が白み始める。
 ペガサスの聖衣を纏った星矢は神殿から持ってきたアイギスを浜辺にある岩に立てかけた。
(この盾にどんな力があるんだ?)
 強い光がサガの身体に入り込んでいた悪霊みたいなものを外へ出すところは見ていたが、どんな力が働いたのかよく分からない。
(アテにするなとは言われたけど……)
「お互い、最後まで闘いぬこうな」
 星矢は盾に小さく言葉をかけた。

 しばらくしてマントをはおった瞬が、これまたマントにくるまれているジュネをお姫様だっこの形で浜辺に連れてきた。
「瞬! 何があったんだ?」
 ジュネが体調を崩したのかと星矢は不安になる。
 しかし瞬は大丈夫だよと言った。
「ジュネさんはちょっと身体に負荷がかかっているだけだよ」
「えっ??」
 星矢は首を傾げるが、瞬は構わず彼女をアイギスの隣に座らせる。
 そしてマントが外されたとき、星矢は驚きの声を上げた。
「何でジュネがアンドロメダ座の聖衣を纏っているんだ!」
「ジュネさんを守るためにはこれが一番いいからだよ。ダイダロス先生も賛成してくれた」
 そして瞬が自分のマントを脱ぐ。身に付けているのは乙女座の黄金聖衣。
「もうすぐ夜明けだね」
 東の空は先程よりも明るくなっていた。



萌え話W・32 閃光
 朝日に照らされて輝いていた海が、徐々に暗い色になる。

 空も何処か奇妙な歪みを見せ始めた。
「来るぞ!」
 カノンの言葉に、星矢はアイギスを持つ。 そして瞬はネビュラチェーンを掴んだ。チェーンは大きな動きを見せて、ジュネの身体を岩に縛りつける。

 このとき、海から何かが複数飛び出してきた。

 しかし、それらは閃光と共に切り裂かれる。ミロが天秤座の武器の一つである剣を使ったのだ。
 彼の足元には真っ二つにされた異形の魚たちが身体を痙攣させていた。

 波が奇妙な動きを見せ始める。
 空もまた黒系の絵の具を流し込んだかのように、変な色合いになっていった。


萌え話W・33 挑発
 天秤座の武器が、選ばれた6名の黄金聖闘士達の小宇宙を増幅させる。
 彼らによって次々と妖魚たちは倒された。
 しかし、正直言って消耗戦とも言えないことはない。何しろ出来ることなら雑魚敵は跡形もなく消し去れと言われているからだ。

 今回、ラダマンティスたちから「妖魔に直接触るのは避けろ」と忠告があった。
 レヴィアタンは不死身ゆえ、その能力の影響を受けた者は強力な自己修復能力を持っている可能性があるというのだ。
「迂闊に触ると、同化の危険がある」
 ただし、この忠告も推測の領域を超えない。それはこの海の魔獣と真っ向から闘った記録が残っていないからだ。

 次々と送り込む妖魔たちが消されているということはレヴィアタンにも分かっていたようである。
 しばらくして海面が盛り上がり、海の中からレヴィアタンが現れた。その身体の周囲から靄が発生する。
「思ったよりも大きいな」
 サガの言葉にカノンは眉を顰めた
「……姿を変えやがった」
 水系の魔物にありがちな話ではある。
 だが、それだけにどうやって捕らえたら良いのか迷う。

 このときミロが叫んだ。
「貴様か、アンドロメダ姫を生贄に要求した身の程知らずは」

 レヴィアタンの目が明らかにつり上がった。

萌え話W・34
 白銀聖闘士たちの任務は、レヴィアタンに従う魔獣たちが聖域の外へ出ないようにすること。

 ペルセウス座のアルゴルは海の方を見る。
 伝説の海魔など、アルゴルの使うメデューサの盾の力を持ってすれば倒せるのではないか。聖闘士達の間でそんな意見が出たらしいが、黄金聖闘士たちから後方支援を命じられた。
「……」
 理由はアルゴルが『まとも』だからだという。

「アルゴルの実力は分かっている。だが、レヴィアタンの能力が未知数な分、そのまともな考え方が命取りになる」

 メデューサの盾の持つ力が絶対的であるがゆえに、アルゴルはその力の限界を疑わないからだ。
 しかし彼は紫龍に敗北した。理由は紫龍が己の視力を犠牲にするという手段を用いたからである。
 知能の高い海の魔獣も似たような手段を取るかもしれない。取らないかもしれないという意見は楽観でしかなかった。

 そしていよいよ現れたレヴィアタンは彼の想像していた大きさを凌駕していた。自分たちは聖域から離れた場所に居るのに、その姿がハッキリと分かるのである。
 ところがしばらくして魔獣の体を包むように霧が発生した。 そしてそれは周辺に広がる。

(来たな)
 この霧を隠れ蓑にレヴィアタンは仲間を侵入させるつもりなのだろう。
(ならば全て倒す)
 アルゴルはメデューサの盾を構えた。

萌え話W・35 騒乱
 霧の中から人の形をした何かが現れる。
「レヴィアタンの兵隊か」
 浜辺にいる黄金聖闘士たちが武器を構えた。妖魚たちが全滅した今、レヴィアタンも自分に歯向かう男たちがただの人間ではないと判断したらしい。

『我ガ不死身ヲ受ケ継ギシ者タチヨ、愚カナひとドモニ恐怖ヲ与エヨ』

 レヴィアタンの咆哮が聖域中に轟いた。

☆☆☆

「レヴィアタンの意識が大きく動いたようです」
 シオンの言葉に沙織は頷く。
 処女宮の中にはユリティースとエスメラルダ、そして二人の女官が不安そうにしていた。

☆☆☆

「レヴィアタン以外の気配はあるかい?」
 処女宮の前ではオルフェが貴鬼に話しかけていた。
 今や処女宮の周りの食う木は不可思議な光のようなものが漂っている。その正体は双魚宮のあるじが作り上げた魔性の薔薇が放つ毒素。この空気の中を移動できるのは黄金聖闘士たちだけだった。
「今のところ海からしか感じないけど……」
 それどころかレヴィアタンの圧倒的な存在感の影響で、小物の方を見落としかねない。
 このとき背後から童虎が現れた。
「どうやら下の方で戦闘が始まったようじゃ」

 それが合図だったのか、空に大きな黒い影が現れた。

目次 / 萌え話W・36〜40に続く