萌え話V・6 裏事情?
「相性問題があるということですか?」
 絵梨衣の質問に沙織は頷いた。
「黄金聖衣レベルになると、とにかく頑固なのです」
 だからといって白銀聖衣や青銅聖衣は違うのかというと、そうとも言い切れないらしい。何しろ白鳥座の青銅聖衣は永久凍土の中で氷河を待ち続けたし、一輝の聖衣はようやっと彼を主と認めたくらいである。
「一途というか、自分の意志を曲げないというか……」
 その為、歴代の黄金聖闘士たちの考え方というのが沙織には何となく見当がついた。
 ソックリではないが、何となく似ている気がするのだ。
「ただ、たまに聖衣たちが聖闘士を試すときがあるのです」
「試す?」
「自分で従っておきながら不安に駆られるのか、唆すのです。強大な力を彼らに与えて、聖闘士が変わらずにいられるかどうかを」
 ただでさえ能力値が高い黄金聖闘士に、黄金聖衣がフルパワーの能力を人に与えるのだ。
 どこまで彼らは正義を持ち続けられるか。
 どれだけその手を血で汚しても理性を保てるか。
 邪悪なことをしていても聖衣達が無条件に従うので、それなりの大義名分が彼らに与えられる。
 しかし実際は、それによって聖闘士側の意志が試されるのだ。

 教皇の間では、黄金聖衣たちがニケの前で萎縮しているように見えないこともない。
「ニケ様は”違うタイプにも目を向けたらどうか”と言っているみたいです……」
 とはいわれても、聖衣達もそう簡単には信念?を変えられないらしい。


萌え話V・7 聖衣参上!
 さすがに勝利の女神ニケの監査が聖衣と聖闘士の個人的事情になってくると、ユリティースも解説はしづらい。女性陣は隣の部屋でお茶会を始めることにした。
「沙織さん、どうしてここなんですか?」
 とにかく隣で行われているファンタジー劇場が気になってしかたがない。絵梨衣は思いきって尋ねてみた。
 すると沙織はティーカップを持ったままにこやかに答える。
「もう少ししたら分かります」
「えっ?」
 沙織はそれ以上何も言わなかった。
 しかし絵梨衣は、それが何であるのかが分かったような気がした。そしてとにかく、無理矢理持ち寄ったお菓子やお茶の話を進めていくうちに……。
 教皇の間の方で強い光が発生したかと思うと、一羽の白鳥がお茶会の席に飛び込んで絵梨衣の傍へと舞い降りたのである。
 しかも、人に慣れているかの様に、彼女にベッタリとくっつく。
 それを見て沙織が嬉しそうに言った。
「やはり所有者である聖闘士不在のとき聖衣にストレスを与えると、一番安心できる人のところへやって来ますね」
 どうやら他の女性陣は、女神アテナの実験に付き合わされたようである。


萌え話V・8 野生の王国
 会場を教皇の間に移し、石の床に綺麗な絨毯を敷いてお茶会続行。
 その周りにはニケにたっぷり絞られて、しょげているであろう黄金聖衣達がいた。

「ニュクス様の力添えです」
 沙織はその一言で、この奇妙な状態の説明を終わらせた。さすがに実力者である夜の女神の名を出されると、嘘だと否定は出来ない。
 むしろエスメラルダと絵梨衣が一緒なので、女神エリスの嫌がらせかもしれないと思えた。
 ただし、誰もそれは口にしない。
 ちなみに白鳥座の聖衣は絵梨衣から片時も離れず、とても寛いでいる。

「……」
 シャイナはこの異様な状態に気分が悪くなりそうだった。
 山羊座の聖衣が威嚇のオーラを出しながら沙織の傍にいる。その威圧感は半端ではない。
「山羊座の聖衣については、そういう方ですから気にしなくていいです」
 沙織は楽しそうに説明するが、それでも何か粗相があれば山羊座の聖衣から言葉なき説教を喰らいそうな気がするのは気のせいではないと思っている。
 ちなみに同胞はというとこの空気に馴染んでいるように見えた。
「魔鈴、よく平気だね」
 すると少し離れたところで、獅子座の黄金聖衣を子猫扱いして遊んでいる魔鈴はアッサリと答えた。
「夢と現実の区別は付いているよ」
 しかし、どう見てもシャイナには、今のこの場所が無骨な妖精郷にしか見えなかった。

萌え話V・9 分かりやすい気持ち
 聖衣達が自我を持った状態というのは、己の聖衣もまた自我を持っているということである。
 しかも性格まで示されるのだ。
 ジュネとしては知りたいような、知りたくないような複雑な気持ちになった。
 思わず手のアームを見てみる。カメレオン座はどのような性格なのだろうか?
 すると沙織がジュネに言葉をかけた。
「カメレオン座に限らず、青銅と白銀の聖衣には好きと嫌いと無関心しかありません」
「えっ……」
「嘘をつくほど複雑な思考を持ってはいないのです」
 もともと会話ができるわけではないということもある。
 だが、逆に黄金聖衣は人間臭いところがあって、嘘をつくのだという。
 しかし、魔鈴に構われて嬉しそうな獅子座の黄金聖衣を見ていると、沙織も何か断言できないものを感じていた。

萌え話V・10 話をしてみよう
 意中の人(?)にベッタリな獅子座の黄金聖衣と白鳥座の青銅聖衣はそれなりに、この状況を楽しんでいる。
  そして威圧的な山羊座の聖衣も、沙織から離れない。
 では、他の聖衣達はどうしているのかというと……。

「困惑されているようです」
 ユリティースの説明に、シャイナとジュネはさもありなんという表情をした。
 天秤座の聖衣の困惑がどういうものなのか不明だが、他人に対して意思の疎通が急に可能になると、今度は何を言っていいのか分からなくなってしまったらしい。
 何しろ聖衣達にとって意思表示というのは想定外の出来事なのだから。
 すると沙織が立ち上がりエスメラルダを呼ぶ。
「この際ですから、双子座の聖衣と話をしてみましょう」
 何がこの際なのか。先の聖域での混乱を少しでも知っている者たちは、何が起こるのかと非常に緊張した。
「これがサガの黄金聖衣です」
 沙織の説明に、エスメラルダを膝をついてしゃがんだ。
「双子座の聖衣、彼女はここにいます。彼女を巻き込まないように、細心の注意を払いなさい。今度は間違えないように」
 そして沙織はさっさとお茶会の席に戻ってしまう。意味不明な女神の言葉に、エスメラルダは何のことかと戸惑った。
 しかし、すぐに神話時代の悲劇を思い出す。
 初代の双子座の黄金聖闘士は、二人の妹を聖域で失っている。自分はその妹の代わりなのだ。
「あの……、よろしくお願いします」
 このとき、双子座のマスク部分の中心が淡く光った。
 波のある光の粒子に彼女はどうしたらいいのか迷ったが、何か喋っているかのような気がしたので思い切って手を添えてみる。
 脳裏に響くは「待っていた」という言葉。
 神話の時代、大国スパルタの二人の王女と双子座の聖衣は面識があったのだ。そして聖衣は王女たちと約束をする。

――ずっと、お兄様と一緒にいてね。

 それは聖衣にとって、とても大切なものとなった。なぜなら、その直後に二人はいなくなってしまうから。
 もう一度二人に会って、約束を守っている自分を見てもらう。
 その為ならば女神ニケに何度注意されようとも、女神アテナに迷惑をかけようとも、絶対に双子座の聖闘士になるべき人物の条件を変えるわけにはいかない。
「私も、サガお兄様とカノン兄さまに出会えて嬉しいです」
 エスメラルダの言葉に、マスクが少しだけ前屈みになる。
 まるで自分の泣き顔を見られなくない人がいるかのような仕草だった。

目次 / 萌え話V・11〜15に続く