萌え話 61話 救出
 人間を薬で改造する。邪神への信仰も、ここまでくると狂気に近い。それも弱き者、関わりなき者達へ危害を加えようとしているのだ。滅せねばならない。

 ミロは一般人よりもやや機敏な動きをする罪人たちを、次々と倒してゆく。
「子供たちは返して貰う」
 そう言って彼は、敵集団の中でやや強い方であろう敵を殴り倒した。聖闘士の存在を知らない者達に、わざわざそれであることを知らしめる必要はない。お節介な人間が居た、というくらいが後腐れがないのだ。
「もう大丈夫だよ」
 シャイナは牢屋の鍵を開ける。中にいたのは連れ去られてきた子供たち。助けが来たことに安堵し、うれしそうに立ち上がる。そこへ一発の銃声が響いた。
(隠れていたのか?)
 蛇使い座の白銀聖闘士は相手が何かを言う前に素早く近寄り、回し蹴りでしとめる。
  一撃で勝負は終了した。


萌え話 62話 困惑
 ジュネの周りに女官たちが集まったので、瞬はその場を離れると一輝と紫龍のところへやってきた。そしてもう一度ジュネの方を振り返る。
「心配なのか?」
 紫龍の問いに瞬は困ったような表情になる。
「なんだか女官さんに睨まれたような気がしたのだけど……」
「はぁ?」
 聖闘士を睨みつけるとは穏やかな話ではない。
「──気のせいにしておけ」
 一輝の言葉に瞬は「そうだね」と頷いたのだった。


萌え話 63話 勇士

 彼ら聖闘士の前に次々と異形の者たちが現れる。だが、どれもこれも伝承に登場する怪物にしては何か嘘くさい。黒い不死鳥の形がどう見ても恐竜に無理矢理翼を付けた状態だったときは、一輝が静かにブチキレて跡形もなく消し去る。まるで間違い探しの試験を受けているかのようだった。
 しかし、何番目かに現れた巨大なイノシシは、様子が違っていた。その身体を炎で包み、大きさは牛に匹敵するかもしれない。風が吹くと身体が揺らめく。
『見つけたぞ。アタランテー』
 しかも人語を発する怪物は初めてである。そのイノシシはジュネを見ている。
「まさかジュネさんをアタランテーと思っているのか!」
 瞬もこの展開に驚く。異形のイノシシはどうやら「カリュドーンのイノシシ」らしい。しかも炎の集合体らしく、物理的な攻撃は無理そうである。エスメラルダ達も不安げに様子を見ていた。
 そして戦いを挑まれたのなら受けるのが聖闘士として取るべき行い。ジュネは立ち上がろうとする。
 ところが彼女の前に一人の男が立つ。
「猪狩りの参加者は他にもいるぞ」
 その言葉が終わるか終わらないかのときに、彼の必殺技が炸裂。
「ゴールデン・トライアングル」
 カノンの一撃にイノシシは炎と共に虚空へと飛ばされる。
 空間ごと飛ばされたようなものだから、炎の怪物は為す術もなかった。



萌え話 64話 惚気
 異形の獣が夜の森を駆け抜ける。その体格と顔は獅子なれど、表面には蛇の鱗を持ち、背には鷲の翼を持っていた。

☆☆☆  

 生暖かい風が森に吹く。アイオリアと魔鈴は目的のものがやって来たのだと察した。しかし、黒い影は魔鈴に近づかない。
(勘づかれたか……)
 翼ある獣は魔鈴をただの娘ではないと気づいたのだろうか。それとも伏兵が潜んでいることがバレたのか。
 しかし、逃す気はない。アイオリアは素早く必殺技を繰り出した。
「ライトニング・ボルトー」
 無数の光が暗い森の空気を切り裂く。そして異形のものは轟音とも言うべき叫び声をあげて、大地に倒れた。
「なんだ、こいつは……」
  すると森の奥からアイオロスが現れた。
「別バージョンのキメラといったところだろう」
 彼の登場に二人は驚く。気配を全然させていなかったからだ。
「兄さん……」
 アイオロスは魔鈴の方を見るとにっこり笑った。
「魔鈴も随分綺麗だな」
「……」
「でも、暗い森の中に一人という設定で落ち着きを払っていると、さすがに手練の者だとバレるぞ」
 この言葉に二人はお互いの顔を見合わせた。確かに魔鈴の様子は気丈というレベルを超えているだろう。二人とも迎え撃つ気満々なのだから。
「まぁ、アイオリアが一緒だからね」
 不安になる理由が無い。そう彼女に言われて、アイオリアは顔が赤くなるのを抑えることが出来なかった。


萌え話 64.5話 惚気の裏??
「まぁ、アイオリアが一緒だからね」
 不安になる理由が無い。そう彼女に言われて、アイオリアは顔が赤くなるのを抑えることが出来なかった。

 だが、アイオロスは、 (……もしかしてヘタレの安全パイ扱い?) と、弟の行く末に不安を覚えた。


萌え話 65話 真打ち登場
 もうすぐ夜が明ける。しかし、彼らは炎のイノシシが最後とは思えなかった。不意に、カミュの作り上げた黒い彫像達から氷の砕ける音が聞こえる。これは一般人のいる場所では絶対零度に近い環境を作り出すことは出来ない為だ。そのようなことをすれば味方の方に被害が出る。それゆえ夜が明ければ気温が上がり氷が解けるのは予測できたが、しかし今の段階では早すぎる。
 先程のイノシシはカノンがほとんど瞬殺したようなものなので、これは別の力が働いているということだろう。
「来たみたいだな」
 アイアコスが立ち上がる。彼は周囲を見回した。森の方から人の手を持つ大蛇が現れる。少しだけ明るくなった世界に、それは禍々しい姿を晒していた。
「よく来たな。エキドナのでき損ない」
 アイアコスは素早くガルーダの冥衣をまとう。怪物も周辺の黒い彫像を吸い込んで身体を大きくする。
「全部を吸い取れば、もしかしたら俺を倒せるかもな」
 意外な発言に瞬たちは驚いたが、アイアコス本人はどこか面白がっている。そして勝負は一瞬にしてついた。アイアコスが手を払った途端、その化け物が絶叫し、霧散し、ガルーダの冥衣に吸い込まれたのだ。
「冥府で裁きを受けろ、亡者ども」
 そして東の空が白々と明ける。その光を受けて、ガルーダの黒い翼が柔らかく輝いていた。


目次 / 萌え話 66〜70 に続く