萌え話41 助っ人参上

 暗闇の中で影が蠢く。地を這うように、紐のような影……。

 音もなく気配を消していたそれは、静かに少女たちの方へ近づこうとしていた。
 シュルッ……。
 草が動いた瞬間、『それ』は得たいの知れない物に襲われる

「なんだ!」
「いったい何が起きたんだ!!」
 暗闇の中での騒ぎに、聖闘士たちは警戒を露にした。 彼らは女官たちを火のそばへ連れて行く。そんな中で、一人だけ笑みを見せていた者がいた。
「ようやっと来てくれたか」
 アイオロスである。
 そして暗闇の中で格闘していたのは、ガルーダの冥衣。その口には何故か蛇の形をしたものがくわえられている。
 ただし、本物の蛇ではないことも分かった。少し離れたところにいるのは冥界三巨頭のひとり、天雄星のアイアコス。

「変な呪術が発動している」
 彼の言葉に他の聖闘士達はわけが分からなかった。



萌え話42 おめかし
「夜が明けたら一人いなくなっていた、というのは嫌だろう」
 アイオロスはアイアコスを招待した理由をあっさりと告げた。
「たしかにそうだが……」
 サガは眉をひそめながらも一応納得する。夜の女神は基本的に中立だが、彼女の子供たちはどちらかというと冥闘士たちと接触が多い。何かあったとき、聖域はどうしても冥闘士の力を借りなくてはならないのだ。
 しかし、聖域側のみの言い分だけでは、冥闘士側が夜の女神の子らに接触はしないだろう。向こうは大人しい性質の神々というわけではないのだから。 ならば、最初から巻き込んだ方が話は早いというわけである。
 最良とは言いにくいのではあるが……。

「パンドラ様もユリティースやアンドロメダが窮地に陥っては可哀相だといっていたから、俺に白羽の矢が立った」
 そう言って、アイアコスは用意された酒を口にした。ただ、オルフェは何か疑わしそうな視線を向ける。
「では何故、ガルーダの冥衣も持ってきたのですか!」
 その身に纏えば高い攻撃力で人々を傷つける事が出来るのだ。アイアコス自身を信じるには、その能力は大きすぎる。そんな彼らの危惧を知ってか知らでか、彼はあっさりと答えた。
「本物であれ呪術系であれ、ガルーダは蛇を見逃すことは無い。ユリティースや他の娘たちを蛇の被害に遭わせるのは避けたいだろ」
 先程ガルーダは本物ではない蛇を退治している。その発見力は聖闘士たちよりも高い。最愛の恋人にとって良いことならばと、オルフェもまたあっさりと納得をする。 そしてアイアコスは言葉を続けた。
「一応、ガルーダには簡易的だが封印がしてある。娘たちを傷つけることはしない」
 その視線の先にある冥衣を、黄金聖闘士達は苦笑いしながら見たのだった。

「ガルーダさん、お久しぶりです」
 ユリティースの言葉にガルーダの冥衣は少しだけヘッドパーツを動かした。角に飾られているリボンがゆっくりと動く。
 実はこのリボンは、ガルーダの冥衣がパンドラから、 『おめかしをしたほうがいい』 と言われて、手づから結んでもらったものなのだ。それをメチャメチャにしてしまい、ガルーダの冥衣は何となくしょげている。
「リボンが汚れたのは私たちを守るためですと、私もパンドラ様に手紙を書きます。ですからそんなに落ち込まないで下さい」
 彼女は優しくリボンを結び直す。ガルーダの冥衣は羽を少しだけ動かしたのだった。


萌え話43 思惑
 聖域から招待状
   ↓
 パンドラ様がおめかしさせてくれた
   ↓
 会場に向かうと、周辺に変な呪術がチラホラ見える
   ↓
 会場には女の子たちがいっぱい
   ↓
 呪術は危険
   ↓
 ここで自分がスゴイ働きを見せる!
   ↓
 女の子たちのアイアコス様への印象が良くなる!!

 会場周辺で黒い影を捕らえまくるガルーダを見ていて、聖闘士達はそんなオーラを感じていた。
 そしてアイアコスはというと、
「まぁ、力ある存在は確かにいる。とにかく、それがここを離れるまで誰一人帰らせない方がいい。隙を付いて持っていかれるぞ」
と言って、バーベキューの延長を宣言した。


萌え話44 風のごとく?
 いくら火の傍とは言え聖闘士ではない女性陣をいつまでも外にいさせるのは、やはり体力的にもキツイものがある。
「この状態が神々の思惑なら腹も括るが、人為的なものならさっさと片をつけよう」
 オルフェはシャイナと魔鈴を呼ぶ。すると他の聖闘士たちも何事かと立ち上がった。

「いや、黄金聖闘士の方々まで動く事は無いのですが……」
 オルフェは苦笑いをする。ところがアイオロスがにこやかに答えた。
「ここで待っていても退屈だ!」
 あまりにもハッキリした物言いに、誰もが彼を止めるのは不可能だと察する。
「何をすればいいのだ?」
 むしろ騒ぎが大きくなりそうな予感がしたが、今更止めるのは無理だと白銀聖闘士たちは溜息をついた。


萌え話45 裏切り?
「怪しい動きを見せている組織は幾つかありますが、最初から全滅をさせては横の繋がりが分からなくなります。それもあって調査以上の事はしなかったのです」
 オルフェはそう前置きすると、何処から持ってきたのか紙とペンでいきなり状況を説明し始めた。
 その時、女官たちの方で声が上がる。

「バーベキューは終わったのか?」
 そこにいたのは蠍座の黄金聖闘士ミロ。彼はアイアコスの存在に眉をひそめる。
「なんで冥闘士がここにいるんだ!」
 彼は声を荒らげたが、 「招待したからだよ」 と、アイオロスにあっさりと言われて沈黙してしまった。
「ところで他のは?」
 カノンの問いにミロは腕を組んで答える。
「白羊宮で教皇と老師に見つかると絡み酒に付き合わされるから、他のヤツらは黄金宮にいる」
「という事は、ミロは逃げきったということか」
 しかし、彼の返事は想像を超えていた。
「面倒なんでカミュを置いてきた」
 友人を人身御供に差し出して、外へ出てきたらしい。
「今頃、ムウの愚痴を聞いているんじゃないのか?」
 このとき、その場にいた聖闘士全員が水瓶座の黄金聖闘士の受難に深く同情したのだった。

☆☆☆

(カミュも災難だな……)
 不意にアイオリアは、星矢が連れてきた老婦人の方を見た。
「……」
 何処かで会った様な気がするが、そう思うこと自体が気のせいにも思える。彼はしばらく悩んでしまった。

目次 / 萌え話 46〜50 に続く