萌え話 36 悩むようです

 夜の帳が下りる。アイオリアは獅子宮の入り口から聖域を見下ろしていた。

「……」
 バーベキュー会場に行きたい気はするのだけど、特に誰かに誘われているわけではない。そんな状態で行ったとして、魔鈴にどんな顔をして会えばいいのかわからず、彼はずっと悩み続けていたのである。
(何の反応も無かったら、それはそれで落ち込むかも……)
 勇猛といわれる男も、こういう事に関しては情けなくなってしまう。そこへ兄から小宇宙を介してのテレパシーが届く。

『アイオリア。双児宮に酒があるから持ってきてくれ!』

「はぁ?」
『頼んだぞ』
 いきなりの使いっぱしりだが、これでバーベキュー会場に行く理由が出来た。
 アイオリアは急いで階段を駆け下りたのだった。



萌え話37 カノンの話
 夜の女神に関わる存在が、来るのか来ないのか。女官たちの勘違いなのか、正解なのか。さっぱり分からないバーベキュー大会は、大勢の参加者と豊富な食料のおかげか穏やかに時が過ぎてゆく。
 しかし、酒を飲んでいながらカノンもサガも全然酔えない。
 アイオロスだけが陽気だった。

「それでカノンはどこで、こんなにも大量の美味い肉を調達したんだ?」
 弟に酒を持ってくるよう依頼した後、アイオロスはカノンの杯に酒を注ぎながら尋ねた。
「……まさか、悪事を犯したということではあるまいな」
 サガは弟を睨む。 だが、カノンは違うと答えた。
「地上のある場所に用事があったのだが、そこの土地を牛耳っていた小悪党が俺に喧嘩を売ってきたんだよ」
「何だ、そのトラブルは!」
「知るか! とにかく面倒だから組織を崩壊させたんだが、それでも腹立たしいから騒ぎの落とし前として、そいつが狙っていた土地で酪農をやっていた人たちから肉を大量に買わせた」
「……」
「おかげで村は生き返り、そいつは力をかなり失った。気分は良かったが、残ったのは大量の食料だ」
 捌くのにも時間がかかる。それで聖域に持ち込んだという事だった。
「喧嘩の原因は?」
「……俺のところの部下がらみだ。それ以上はノーコメント」
 つまり、他人の喧嘩を彼はわざわざ高く買ったらしい。


萌え話38 期待していたのですが…… (改訂あり)
「まぁ、最初から敵対することはないが、警戒はしておくべきだろう」
 サガはそう言って、酒を口にした。
「夜の女神は穏やかな方だと聞くが、あの方の産んだ神々はそうでないことが多い」
 一夜明けたら、参加者の数が足りなかったという事態は避けたい。二人が考え込んでいると、アイオロスが心配することはないと言った。
「もうすぐ助っ人が来てくれるはずだ」
 自信満々の態度に、サガとカノンは嫌な予感がした。
「助っ人?」
「アイオリア……ではないのか?」
 この言葉にアイオロスは笑顔になる。
「アイオリアも成長したんだなぁ」
 そのしみじみとした口調に、二人は 『バカ兄がいる……』 と、同じことを考えたのだった。

 そのころ、双児宮から酒を持ってきたアイオリアは、アルデバランの作った南米料理を静かに食べていた。
「こういう味付けはダメだったか?」
 他の者たちは美味しいと言ってくれているので、そんなにハズれた味付けではないはずだが、同胞が静かに食べているとアルデバランとしては何か気が気ではない。するとアイオリアは 「いや、美味い」 と慌てて答える。そこへジュネが料理を取りにやってきた。彼女は着飾っているので、気を利かせて女官たちが料理を運んでくれるのだが、さすがに歩きたくなったらしい。そんな彼女をアイオリアは見つめる。
 彼は普段着で行動している魔鈴を見て、期待していた分、ガッカリ感を味わっていたのだ。


萌え話39 闇の中で
 異質なものの気配。オルフェは暗闇を見つめる。ユリティースを求めて冥界へ降りた経験は、彼に闇の中で蠢く気配を察する能力を敏感にした。何かが起ころうとしている。彼はアイオロスを呼ぶ。

「何か起こったみたいだな」
 アイオロスの言葉に、サガとカノンも動く。他の聖闘士たちも異常事態が発生したことに気付いた。
「まだ、はっきりとしてはいませんが油断はしない方がいいと思います」
 人が闇に潜む者をみるには、一度は光の下にさらさなければならないのだから。
 しかし、今は夜である。簡単に出来ることではない。
「まずは星矢に行かせよう」
 話を聞いた魔鈴が弟子である星矢を呼ぶ。
「何かあったのか? 魔鈴さん」
「これから起こるかもしれないということだよ」
「?」
「行ってこい」
 問答無用な師匠の言葉だが、星矢は特に気にすることなく魔鈴が指さした方向へ走り出した。

 十数秒後、森の方で人の声がしたかと思うと、星矢が一人の老婦人を背負って戻ってくる。
 その服装から見て、“どうみても聖域関係者に思えるが時代が違うような気がする”と彼らは思った。


萌え話40 主張
 何故、暗い森の中に居たのか。しかも、聖域の近くである。老婦人の言うことには、とある村へ行く途中、森でお供の者とはぐれてしまったとのこと。
 しかし、聖闘士側の警戒を知ってか知らでか、老婦人は何か嬉しそうだった。

「こんなにも綺麗なお嫁さんを頂けるとは、神に感謝いたします」
 その視線の先にいるのはジュネ。たしかにある意味花嫁モードである。思いっきり目的地だと勘違いしていた。
 瞬は慌ててジュネを庇うように立ち、 「違います! 彼女は僕のものです」 と、主張する。
 ジュネは赤くなりながら、恋人の方を見たのだった。

目次 / 萌え話 41〜45 に続く