萌え話31 意外なスポンサー

「それじゃ、俺は海底神殿に戻る」
「あぁ、分かった」
 溺愛100%以上というわけの分からない会議に付き合い、その後、ダラダラと双児宮でサガと酒をのみつつ雑談をしていたカノンは いい頃合いだと判断して席を立った。そこへ星矢とアイオロスが駆け込んでくる。

「カノン!いるか」
「カノン!!!!」
 あまりの騒がしさに、サガも何事かと立ち上がる。
「二人ともどうしたんだ!」
 しかし二人はサガの問いを無視した。
「カノン、居た──!」
「よし、捕獲だ! ペガサスはサガを連れてこい」
「何なんだ。お前たちは」
 アイオロスがカノンを無理やり双児宮から連れ出すという荒技をしてのけると、残されたサガは星矢を捕まえて理由(わけ)を聞くしかない。
「カノンが何かしたのか!」
 すると星矢はサガの手首を掴んだ。
「カノンを連れて行けば、バーベキューの料理が3品増えるんだ。サガも来てくれ」
「私が行くとどうなるんだ?」
「料理が5品に増える!」
 話の内容がよくわからないが、とにかく食べ物絡みなのだ。 ここで逆らうと星矢はいいとして、アイオロスが何をしでかすか分からない。サガは仕方なく付いて行った。何しろバーベキュー会場にはエスメラルダもいる。様子を見に行くという大義名分はあった。そしてバーベキュー会場で、サガは意外な話をユリティースたちから聞かされたのである。
 なんと、今回の食材のほとんどは、カノンがエスメラルダに料理を覚えてもらうということで先生役の女官たちの分まで用意したものだったのだ。

「海将軍様には感謝してもしきれません」
 彼女たちの言葉にサガは、 (カノンは聖域を別な意味で掌握したな……) と、思った。それにしても膨大な食料ではある。
「まぁ、詳しいことは酒でも飲みながら聞こうじゃないか」
 アイオロスに肩を組まれて、カノンは心底嫌そうな顔をしたのだった。



萌え話32 何だかすっかり飲む気です 1?
「アルデバラン。食べ物はまだありますか?」
 バーベキュー会場にやって来たムウに、アルデバランは少なからず驚く。
「新しく肉を焼くところだ」
 彼が女官たちの方を向くと、そのうちの一人が鶏肉の入った器を持ってきた。
「ムウも食べに来たのか?」
「そうです。と、言いたいところですが、白羊宮に食べ物を運んで、ご老体達を大人しくさせないとなりません」
「?」
「カメレオン座が着飾って白羊宮にやって来たので、老師と師シオンが酒を飲みながら春麗の嫁ぐときについて会議をし始めてしまったのです」
「……」
「あの二人が暴走した計画を練り上げないように、見張らなくてはならないのですよ。まったく……」
 では、ムウにストッパー役が出来るのか? アルデバランはこの疑問をすぐさま忘れることにしたのだった。


萌え話33 何だかすっかり飲む気です 2?
 その頃、白羊宮では……。

「いつか春麗も嫁に行ってしまうんじゃなぁ」
 ため息をつく童虎のコップに、シオンが酒を注ぐ。二人はかなり酒を飲んでいた。床には徳利やらビンが置かれている。
「娘を持った宿命だ。若夫婦に五老峰の家を譲って、天秤宮に戻ればいいだろう」
 シオンは古い友人を冷めた目で見る。
「それとも戻りたくない理由でもあるのか?」
 すると天秤座の黄金聖闘士は酒を口にしたあと呟いた。
「……聖域には思い出が多すぎて、逆に息苦しいんじゃ」
「……本音は?」
「今の黄金聖闘士たちは破天荒すぎる。年寄りには付いていけん」
 その堂々とした意見に、シオンは「お前が言うな」とツッコミを入れたのだった。


萌え話34 事情あり
「さて、こっちでも肉を焼くぞ!」
 アイオロスが嬉々として鉄板に牛肉を乗せる。サガとカノンは渋い顔でそれを見ていた。
「……随分、大所帯のわりに雑兵たちは居ないみたいだな」
 サガは会場の様子を見て、少し不思議な気がした。本来、聖域の警備は雑兵たちが行っている。女官たちがこのようなバーベキューを野外で行うというのなら、数人の雑兵が警護を兼ねて参加しているはず。 ただ、アルデバランが居る以上、彼女らの安全は確保されているし、星矢たち青銅聖闘士も複数いるので雑兵はいなくても構わないのだが……。
 すると、アイオロスが肉の焼け具合を見ながら答えた。
「今回は特別な方も参加しているかもしれないから、雑兵たちには遠慮してもらった」
 彼はそう言ってエスメラルダのほうを軽く指さすと、再び肉の方に集中する。
「まさか……特別な方とは……」
 サガはその存在に思い当たる。
「女神ニュクスに連なる者か……」
 カノンも驚きの声を上げた。しかし、アイオロスは動きを変えずに、淡々と肉を二人に振り分けた。
「女官たちの一部に、そういう予兆みたいなものがあったらしい。それなら大混乱を引き起こされる前に、一度は彼女を夜の空間へ連れて来た方がいいだろう」
 ちなみにサガやカノンの方に女官たちから連絡がなかったのは、確証が無かったから。今回のバーベキューも建前は、野外での食事の作り方を色々と教えるということになっていた。
「結局、向こうが存在を明らかにしてくれない限り、こっちでは本当に来ているのか分からないからなぁ」
 だから、エスメラルダの保護者であるサガには、女官たちもどう言っていいのか迷ったのである。
「では、何故、アイオロスは知っているのだ?」
 サガの目が据わる。自分の知らないところでエスメラルダに関する話が持ち上がっているというのは、非常に面白くない。そして彼としては、アイオロスから教えられるというのは、けっこう微妙な気持ちになるのだ。
 とにかく有り難いというよりも、「これから騒ぎが起きそう」な気がするのだ。
「そりゃぁ、こっちにも色々と情報網が……」
「……」
 サガの背後に不穏な小宇宙が立ち上る。カノンもまたアイオロスを睨んでいた。
「小さいころのアイオリアは可愛らしくて、油断をしていると……」
「もう、その話は聞き飽きた」

 昔、実弟が誰かに連れ去られるのではないかと思い込んでいたアイオロスは、それこそ色々な方面に情報網を構築していたらしい。当時は幼い弟を守るための努力が過剰な気がしたが、今思うとその情報網があったからこそポリュデウケースの魔の手から女神アテナを救い出せたのかもしれない。
 では、自分もそういう姿勢でいた方がエスメラルダを守れるのか? ただ、守ろうとするあまりエスカレートして、彼女をフェニックスの聖闘士からも引き離しては意味がない。このバランス感覚は、サガにとって少しやっかいな問題だった。
(そういえば、アイオロスは結構エスカレートした対応をしてはいなかったか?)
 黄金聖闘士の行動ゆえ、聖域内部に彼の行動を押さえられた人間は少ない。そしてアイオロスの行動は素早いが、大雑把なところがある。だから彼は尋ねた。
「アイオロス。今回は何もしないでいるだろうな」
「……えっ?」
 わざとらしいトボケ方に、サガはますます嫌な予感がした。


萌え話35 和み

 バーベキュー会場となっている遺跡には、大昔に聖域で重要人物を保護するときに使っていたことがあるという資料が残っていた。今では石で作られた床のみで天井などない。それゆえ、野外料理を作るにはもってこいの場所になっている。

「味の方はいかがですか?」
 差し出された料理を食べるジュネに、エスメラルダは不安げに尋ねる。 ジュネは戸惑いながらも、 「……美味しいです」 と答える。
 すると、彼女の言葉にエスメラルダは嬉しそうに微笑んだ。

 この二人の様子は絵画の一場面のように可愛らしく、女官たちも思わず手を止めて見守っていた。話の内容はかなり庶民的だが……。
 そしてそんな二人に瞬は和み、一輝はエスメラルダの作った煮物を黙々と食べていた。


目次 / 萌え話 36〜40 に続く