萌え話 16 人馬宮編 1 |
「ペガサスは敵方の女性と戦うのを避ける方か?」 アイオロスの問いに星矢は首を傾げる。 「女に手を上げることは出来ない。そういう理由じゃ駄目なのか?」 「相手が女の闘士なら、戦わねばペガサスの方が危険だぞ」 「……」 「イーグルの教えか?」 アイオロスの言葉に彼は思いっきり首を横に振る。自分の師匠は敵の性別など気にしない方である。むしろ女という理由で手加減をしようものなら、彼の方がイーグル・トゥ・フラッシュをくらいかねない。 自分が女に手をあげない理由。 彼は昔の出来事を思い出した。幼馴染みの少女・美穂を転ばせてしまい泣かせたとき、姉の星華に怒られたのである。しかも、「美穂ちゃん、星矢に会いたくないって、いなくなっちゃったわよ」と言われたのだ。 実際は神父様と彼女は一緒に買い物に行っただけなのだが、あの時は本気で美穂を探しに行こうと思った。 あの時の胸の痛みは、今でもはっきりとおぼえている。 「もし、俺が女の人に怪我をさせたら、泣く人がいるから……」 つぶやくような星矢の言葉に、アイオロスは「そうか……」と言った。 |
萌え話 17 人馬宮編 2 |
「えっ。瞬が聖域に来ているの!」 「なんだ、ジュネ。まだ、会っていなかったのか」 人馬宮にて星矢から恋人の事を言われて、ジュネは戸惑った。もし、それが本当ならば、何故自分には何も言ってはくれなかったのだろうか。 (もしかして危険な任務をやっているとか……) 彼女の不安げな様子に、星矢は大丈夫だよと言う。 「ジュネはその花嫁衣装を着たまま、あいつのことを待っていればいいんだよ」 その言葉にジュネの顔が赤くなる。確かに白っぽい服を着て髪飾りからブーケから小道具を持っている彼女は、どう見ても花嫁。 「ところで星矢。アイオロスは?」 今回の元凶とも言うべき男の姿が見えない。 魔鈴の問いに星矢は苦笑いをした。 「用事があるといって教皇の間へ行ったよ」 ラスボス役にここで当たると、残りの宮を突破する理由が希薄になるから。 星矢の説明に三人はため息をついたのだった。 |
萌え話 17.5 人馬宮編 (追加) |
「私の髪に花をさせたら、明日の練習メニューを甘くしてやるよ」 |
萌え話 18 磨羯宮編 |
黄金宮の一室には誰が用意したのか、ティーセットが置かれている。 「この磨羯宮で一時間の休憩を取ること」 意外な言葉に彼女たちは顔を見合わせる。正直言えば日没も近くなったので、さっさと先に行きたい。そのことを山羊座の黄金聖闘士の言葉に尋ねると、彼は即座に却下した。 「休憩は必ず取らせろと言われている」 相手が実力行使の足止めも辞さないという様子では、強行突破など出来るわけがない。下手をすればそこで別の意味でのゲームオーバーは確実である。彼女たちは仕方なく用意された部屋で休憩を取ることにした。 そしてシュラもまた別室で己の不運を呪っていた。 『シュラ。彼女たちから好みを聞いといてくれ』 少し前に小宇宙による連絡があった。声の主は童虎である。 (何故、俺が……) 『一時間も話をする時間があるのだから、それくらい簡単じゃろ』 本人からすれば、全然簡単ではない。 『早くしないと、こっちで勝手にメニューを決めることになる』 どうやらユリティースとエスメラルダが疲れて戻ってくるであろう女性聖闘士達のために、大鍋料理を企画していたのである。そうすれば魔鈴たちは今夜の夕食を気にせずに済む。 料理は多人数分作るので、話を聞いた春麗が誘いを受けた。こうなると童虎と紫龍も参加することになる。そして新鮮な肉や魚が、今回は過剰なまでにあった。理由は色々とあるのだが、とにかく野外パーティーに雪崩込んでも大丈夫なくらいである。 ということでメニューが増えたから、童虎は女性聖闘士達の好きな料理をシュラに聞けというのだ。 嘘をつくのが下手な山羊座の黄金聖闘士は、大きなため息をついた。 |
萌え話 19 宝瓶宮編 |
「カメレオン座、先に進むつもりか」 水瓶座の黄金聖闘士、カミュの言葉にジュネは驚く。 「えっ?」 「双魚宮へ向かいたくはないというなら、ここから戻れ。あとは私が教皇とアイオロスに言っておく」 意外な言葉に、彼女は戸惑う。何故、黄金聖闘士がそのようなことを言うのだろうかと……。 自分とアフロディーテの確執は、聖域にとって無かったことにしたいはずではないのか。 「──私は進みます。ここで下がることは、私にとって全てのことから逃げることなんです」 普通ならば黄金聖闘士は雲の上の存在である。普通なら一生会わずに済む相手であろう。 しかし、縁なく会うことが無かったということと、逃げ回って会わずにいたということは結果が同じでも性質がまるっきり違う。そしてダイダロスの弟子として、後者は絶対に選びたくはなかった。 「ならば、私の一撃を乗り越えろ」 カミュは赤いバラを手に持つ。 「……」 今までの黄金聖闘士達は、バラだけは使わなかった。その意味が今、ジュネには分かったような気がした。 (怖い……) 脳裏に浮かんだのはアンドロメダ島で行われた粛清。あの時のバラの花は、怖さと美しさを兼ね備えていた。 「行くぞ」 ジュネは頷く。ここで逃げ出したら、聖域そのものからも逃げ出したくなる。 だが、意地でもそんな無様な真似をしたくはなかった。 |
萌え話 20 場所不明編 |
瞬は双魚宮へ向かう。間に合うのか。いいや、間に合ってみせる。 この心臓をバクバクと言わせているのは運動量が原因ではなく、恋人をあの男に会わせてはならないという不安によるものだった。 「ジュネさん!」 双魚宮に入ると、彼女の名を叫んだ。しかし反応はなく、彼はそのまま奥へと突き進む。そして瞬は見てしまった。魚座の黄金聖闘士の腕の中にいる恋人の姿を……。 その胸は血で赤く染まっている。 なのに魚座の黄金聖闘士であるアフロディーテは、愛おしそうに彼女の髪を手で梳いていた。 (許せない) 「ジュネさんに触るな!」 瞬は自分の叫び声によって、意識を取り戻す。 「あっ……」 周囲を見回すと、薄暗い石造りの部屋に寝かされていた。部屋にはランプが置かれており、ほのかに明かりを灯している。 「……」 近くにはアンドロメダ座のパンドラボックスがあり、紙がそばに置かれていた。 『しばらく大人しくしていること / アイオロス』 彼は我に返る。 (ジュネさん!) 先程の夢が正夢になるのではないか。 とにかくここから脱出をすることにした。 |