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日常
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「星矢ちゃん。ちょっと買物に行ってくるね」 美穂はそう言って、屋根の上に居る星矢に声をかけた。 「掃除が一段落ついたら休憩してね。 絵梨衣ちゃんがお茶の用意をしてくれているから」 その声に星矢は了解と答えた。 |
その日、星矢は日本に久しぶりに帰って来たので、いつものように星の子学園に遊びに来ていた。 ところが学園の隣にある教会を見た時、彼は首を傾げてしまった。 「何だ?」 大きなビニールシートが一度雨に打たれたのか、屋根に張りついていたのである。 そしてシートには“Get a chance!”の文字が大きく書かれていた。 この意味があるのか無いのか分からないシートは、美穂の説明によると二日くらい前に大風が吹いた時に何処からか飛んできたという。 「でも、張り付いたまま放っておくわけにもいかなくて、屋根に上がろうかと思ったんだけど……。 神父様と絵梨衣ちゃんに止められちゃったの」 幼馴染みの言葉に星矢はギョッとしてしまう。 いくら梯子があったとしても、若い娘が教会の屋根に上がろなど普通は考えない筈。 しかし、招かれざるシートを取るという理由で業者を呼ぶのを躊躇うのも分からないわけではない。 |
「美穂ちゃんじゃ周囲の人間の寿命が縮むよ。 俺がやる」 梯子を物置から持ってくると、星矢はゆっくりと登った。 屋根の上に登ると、傾斜は多少あったが聖闘士である彼にはなんでもない。 ただ、子供たちが自分の行動を真似をしては大変なので、慎重に行動する振りをする。 この時彼の手には掃除の道具があり、何か図られた様な気がしない事も無かった。 目的の場所に辿り着くと、星矢は辺りの様子を見た。 眼下に広がる光景は綺麗だったが、星矢には何処か知らない場所のようにも思える。 (昔の面影、無くなったなぁ) 教会の屋根からという珍しい場所から見える風景ではあったが、星矢はさっさと掃除を終わらせる事にした。 たった一人で居るというのは、何処か寂しい気がしたからだ。 |
問題のシートを片づけ、屋根の掃除を一通り終えると星矢は梯子をゆっくりと降りた。 子供たちの見ている手前、聖闘士なので平気だと分かっていても飛び下りる事が出来ない。 美穂に怒られる事が十分判っていたからである。 星矢にとって彼女は、師匠の魔鈴や姉の星華とは別の意味で逆らえない存在だった。 しかし、 「今日は星矢ちゃんの好物を作って上げるね」 と言って、嬉しそうな笑顔を見せる幼馴染みを見ていると、それでも良いかと彼は思う。 |