|
|
日常
その2
|
「お疲れさま。星矢さん」 学園の食堂に行くと、絵梨衣がお茶を用意していた。 ちょうどお茶請けが大福という事で飲物は日本茶だった。 それを見て星矢は困惑してしまう。 「星矢さんはココアか紅茶の方が良かった?」 その問いに彼は慌てて訂正した。 「日本茶で大丈夫だよ」 星矢は席に着くと、いただきますと言って大福を口にした。 餡の甘さが何処か懐かしい。 「口に合わない?」 神妙な面持ちで大福を食べている星矢を見て、絵梨衣が不安げに尋ねる。 「そ、そんなことないよ」 星矢は慌てて否定したが、何か観念したように言葉を続けた。 「その……懐かしいなって思ったんだ。 聖域に居た時は日本の食べ物なんて無理だろ」 美穂には現実離れした聖域の話は出来ないのだが、絵梨衣は女神エリスの一件で聖域の事情を分かっているので星矢はごく普通に言葉にする。 「なんでだろう。 銀河戦争の時に日本に戻った時も、財団が連れてきたシェフの日本食を食べたけど……。 食べた気がしなかった。」 |
むしろ美穂と再会した時に長居をして夕飯までご馳走になり、その時初めてまともに食事をしたような気がするくらいだ。 『星矢ちゃん。美味しい?』 星の子学園で食事をすると、毎回美穂はちょっと不安げに自分に尋ねる。 その表情も可愛いが、美味しいと言うと喜んでくれる顔を見るのが好きだった。 実際、彼女の作ってくれた料理は美味しいと思っている。 |
「美穂ちゃんの作ってくれる食事の方が美味いんだよな……」 すると絵梨衣は楽しそうに笑った。 「星矢さんの惚気、聞かせるのは私じゃないはずよ」 「えっ。俺、惚気ていた???」 何を言われているのか分からず、星矢はキョトンとする。 「ところで星矢さん、今日は学園に泊まってくれるのでしょ。 子供たちがさっきから遊んでくれないか待っているのだけど」 絵梨衣に言われて周囲を見てみると、窓の外から子供たちが手を振って星矢の事を呼んでいる。 「今、行く」 星矢はお茶の礼を言うと、慌てて食堂を出た。 |
(まったく、美穂も星矢さんも人にばかり惚気ないで、ちゃんと相手に言えばいいのに……) 以前、美穂から星矢は自分の料理を無理して食べているのではないかと相談された事がある。 しかし、絵梨衣としては『あの食べっぷりは美味しくないと思っている食事には無理』と思っていた。 (しばらくは二人の惚気を聞き続けそうだわ) それはそれで幸福な事ではあるのだが……。 ただ、その穏やかな時間は、泥だらけで遊んでいる星矢と子供たちに気がついた時点で終焉を迎える。 (また洗濯をしないとならないわね) 買い物から戻った美穂に怒られている星矢を見て、絵梨衣はため息をついた。 |
|
| |
|
|