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春の夢
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邪教の徒によって密かに作られた神殿。 そこは洞窟の奥深くにあった。 そして其処で行われる邪神降臨の儀式を、俺たち聖闘士が阻止しなくてはならない。 仲間の一人が俺の肩に手を置いた。 「邪神エリスを信奉する者たちが此処に集まっている。 俺たちは邪魔者を排除するから、キグナスは真っ直ぐエリスの巫女の元へ向かうんだ。 奴らにエリスを降臨させてはならない」 その言葉に俺は頷いた。 もう一人の仲間が言った。 「あいつらはエリスの力でこの世を戦乱に引き込むつもりだ。 だからこそ巫女を逃すわけにはいかない。 キグナス。その聖衣の宿命が本物のエリスの巫女をお前に教えてくれると信じている。 頼んだぞ」 そう、俺は絶対に本物を見つけなくてはならない。 だが、敵も命懸けで巫女を守る。 聖域は何度も偽の巫女を掴まされてきた。 そして、その攻防戦で大勢の仲間が傷ついたのだ。 「行くぞ」 俺たちは神殿へ突入した。 薄暗い神殿。 幾人もの若い娘を見かけたが、巫女は彼女たちではない。 背後で人の叫び声が聞こえる。 俺は目的の人物が近い事を本能的に察知した。 (見つけた!) 祭壇に向かって立っている女性。 あれが邪神エリスの巫女だ。 彼女が振り返る。 俺は動けなくなった。 何て美しい…… |
「絵梨衣……」 そう呟いた途端、氷河は弾かれたようにベッドから起き上がった。 生々しい夢に心臓が痛いくらい早鐘を打っている。 「何て夢だ」 彼は大きく深呼吸をした。 |
「氷河さん。どうしたの?」 恋人の絵梨衣と久しぶりのデートだというのに、氷河は今朝見た夢が気になっていた。 彼はずっと難しい顔をしている。 (聖衣の宿命? ばかばかしい) しかし、何であのような夢を見たのかと考えると、気持ちは暗く沈む。 もしかして自分は、心の何処かで恋人を敵だと思っているのだろうか? そんな氷河の頬に、絵梨衣は手を伸ばした。 「何か心配事があるの?」 その温かい温もりに、氷河は弱々しく笑う。 「絵梨衣が綺麗だから不安なだけだ」 いきなり甘い言葉を言われて、絵梨衣は頬を赤くした。 「はぐらかさないで!」 「……」 「もしかして、また闘いが始まるの?」 泣きそうな絵梨衣の表情に、氷河は彼女を安心させようと抱き寄せた。 「そうじゃない。 お願いだ。これ以上は聞かないでくれ」 絵梨衣は氷河の様子に何も言えなくなり、ただ不安げに頷いた。 |