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光る花
その1 |
何故、その地に光があったのか。 『彼』にはその理由がよく判らなかった。 |
女神の慈悲により再び生を受ける事の出来たユリティースは、
この日、聖域の外で意外な人物と再会した。 しかし、その時の彼女の状態はかなり良くない。 何せ彼女は町を歩いていて、無頼な輩に難癖を付けられて取り囲まれていたのだ。 この窮地を、その人物は難なく排除。 勝負はあっと言う間について、ユリティースに絡んでいた男達は騒ぎを聞きつけた町の警官に連れて行かれた。 |
「……」 「ありがとうございました……」 目の前にいる男性は、冥闘士達を統括する三巨頭の一人。 ワイバーンのラダマンティス。 彼は少しだけ眉をひそめた。 「オルフェはどうした。 一緒ではないのか?」 「……」 そう尋ねられると、ユリティースとしてはどう答えていいのか判らない。 今は休戦状態とはいえ、明日にも再び闘いとなればオルフェは彼と死闘を演じる事になるからだ。 居場所を教えていいのか、恩人に対して嘘を言っていいのか迷う。 向こうも自分の質問の拙さに気が付いたらしい。 「あっ、いや……。 一緒ではないように見えたから聞いただけだ。 他意はない」 「今日は私一人です。 用事があったもので……」 「そうか……。 だが、今度からは一人で出歩くのは止めたほうが良いな。 お前はトラブルに遭い易い」 ラダマンティスに言われて、ユリティースは申し訳なさそうに俯いた。 昔から彼女は何かと騒ぎに巻き込まれ易かった。 それで恋人には随分と迷惑をかけている。 これはユリティースの美貌と儚げな雰囲気が、やたらと人目をひくから。 そして今度は、周囲の野次馬な人々がラダマンティスの存在を怪しみ出していた。 「……すまないが、ここら辺は不案内なのだ。 少し話がしたい。 何処か静かな場所は無いか?」 相手が三巨頭の一人でなければ怪しむべき言い方なのだが、 ユリティースは幸か不幸か彼の気性を知っていた。 ラダマンティスという人物は、信頼できる男なのである。 彼女は素直に頷くと、彼を郊外のカフェへ案内した。 |
「先程は本当にありがとうございました」
席に着くなり、ユリティースは恩人に礼を言う。 「礼はさっき聞いた。 もういい」 「……」 「それより、ここで話す事は無闇に口外してもらいたくはない。 約束してくれ」 「……はい」 「今夜、12時。 聖域に繋がる通路のこちら側に居てくれ。 一人が望ましいが、それを言うのは酷だから誰かに居て貰っても良い。 ただし、その者には気配を隠して貰う事と、この事は他の者には内緒にしておいてくれ」 そのとんでもない依頼に、ユリティースは直ぐさま返事ができなかった。 「嫌なら来ないで良い。 それが答えだと受けとる」 ラダマンティスはそう言うと、それ以上何も言わなかった。 ただ、彼女が聖域に戻る時、安全の為に近くまで送る事だけは忘れなかった。 |