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心配 その2
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乙女座の言葉に、アンドロメダは沈黙する。
確かに自分達は闘衣なのだから、彼らの役にたつ時と言うのは闘いの時である。 そして誰よりも優しい自分の主は、悩み心を傷つけながら敵を倒している。 こんな状態が長く続いたら、もしかすると主の心はボロボロになってしまうかもしれない。 それが心配で、つい平時でもパンドラボックスを全開にして主の様子が分かるようにしていた。 『……』 やはり自分の主の傍には、その苦しみや辛さを理解出来る人間にいて欲しい。 その時同じ聖闘士なら、自分の主の痛みを理解してくれるのではないか? アンドロメダは急に何かが判った様な気がした。 そして、自分のした事に慌てる。 |
『……どうしよう……。 私の所為でジュネさんが瞬君の事嫌いになったら……』 もっと早くに気付けと乙女座は言いたかったが、また話が混乱するのは避けたいのでそれ以上は言わなかった。 『瞬君に会わせる顔がない!』 『ちょっと待ちなさい! 貴女がそんな事を言ってどうするの』 このまま失踪などされたら、それこそ一大事。 興奮状態のアンドロメダをなんとか宥める。 『とにかくジュネさんに謝りなさい』 『でも、許してくれないかも……』 『謝りもしないで、許してくれるわけないでしょ!』 乙女座に言われてアンドロメダは決意したらしく、一筋の光りとなって処女宮を後にする。 なんとか事態の収拾がついて、彼女はほっと安堵のため息をもらした。 |
「ご苦労だったな」
いきなり主に話しかけられて、乙女座はギョッとする。 いつの間にか部屋にはシャカが立っていた。 だが、彼は言いたい事だけ言うと、そのまま部屋から立ち去る。 乙女座はどこから話を聞かれたのかと考えてしまったが、そもそも自分たちの会話を聞く事が出来るはずが無い。 しかし、今の主は何もかも知っているような節があり、油断は出来ない。 『……』 だが、何処から聞かれようとも自分の主が他の人にしゃべる様な人間ではない事も分かっている。 彼女は何とか問題が解決したと思い、パンドラボックスに戻った。 確か明日は女神に謁見する為に、主人と共に神殿に行く事になっている。 『平和なこの時が続きます様に……』 乙女座はそう思いながら、しばしの眠りについた。 |
とにかく私は慌てて、瞬君のもとに戻った。 ジュネさんが瞬君を見限って、居なくなったら大変だったから。 何よりも瞬君が、あのひとを諦めたら取りかえしがつかない。 瞬君の悲しむ顔を見たくない。 ええっと、まずはどう謝ろうかな。 そうだ。ジュネさんにお花を持っていこう。 アンドロメダ島には植物がほとんど無かったから……。 あと、カメレオンの聖衣にも話をつけておかないといけないわね。 私の所為で向こうが瞬君を一層毛嫌いしたなんて、絶対にイヤだもの。 絶対に瞬君に危害は加えさせない。 |
わけの分からない事態。 瞬はとにかくジュネの怪我の手当てをする。 「ジュネさん。ごめん……」 彼の血の気が引く。 よもや自分の聖衣が恋人に怪我をさせるとは思ってもみなかったからだ。 「大丈夫よ。これくらい。 これで済めば安いものよ」 そう言ってジュネは笑う。 「何が?」 言葉の意味が分からない瞬は、ジュネの顔をじっと見た。 だが、彼女も言うつもりは無いらしく視線を逸らす。 「別に瞬は知らなくて良いの」 「……」 そう言われると、自分が除け者にされているようで瞬としては非常に悔しい。 「ずるい!」 今度は瞬の方が不機嫌になった。 しかしアンドロメダ座の神聖衣と違うのは、彼女から離れなかった事だった。 |
本当に急いで戻ってきた。 瞬君は私を見て、驚いたり喜んだり不思議がったり……。 ご心配をおかけしました。 私はもう大丈夫。 そしてジュネさんは此処にいてくれた。 何だか疲れていたようだけど、どうしたのかな? やっぱり私の所為???? ごめんなさい。ジュネさん。 お詫びに花をあげる。 |
瞬は、野の花を持って部屋に戻ってきたアンドロメダの神聖衣をパンドラボックスに戻す。 そして神聖衣のメチャメチャな出入りの所為で窓ガラスがえらい事になっているが、とにかく掃除をして雨戸を閉める。 「……さっきのは何だったんだろう……」 ジュネは家にたまたまあった一輪挿しに、その花を生けた。 右手には包帯が巻かれており、その様子は痛々しい。 だが彼女は嬉しそうに野の花を見ていた。 |